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夫の死から2年後に約700万円の追徴課税 専業主婦が陥った落とし穴 税理士が解説

公開日:  /  更新日:

著者:板倉 京

遺産相続の思わぬ落とし穴に注意(写真はイメージ)【写真:写真AC】
遺産相続の思わぬ落とし穴に注意(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 夫婦が協力して築いた財産は「共有財産」として、専業主婦でも離婚時には財産分与の対象となるのは広く知られています。そう考えると、夫が稼いだお金は妻のものでもあると考えがちですが、遺産相続の際には落とし穴になることも。夫の給与管理をすべて行っていた妻が、自身名義の貯金で困ってしまったというケースを、豊富な実務経験がある税理士で、マネージャーナリストの板倉京さんが解説します。

 ◇ ◇ ◇

妻名義の通帳に預金していた3000万円が相続の対象に

 相談者は後藤輝美さん(仮名・58歳)。2年前に夫が亡くなり、相続税の申告を済ませましたが、最近になって税務署から申告漏れの指摘を受けたといいます。

「先日、税務調査が入って、私名義の通帳も夫の財産だから、追加で申告するように言われました。しかも、私がわざと財産を隠したとしたら『重加算税』という高い税金がかかると言われました。なんでそんなことになるんですか?」

 輝美さんの場合、税務調査で指摘された通帳の額は3000万円。この調査で税務署は、450万円の相続税と約157万円の重加算税を払うように求めてきたといいます。さらに、延滞税が約73万円もかかるとのこと……。

 まず、実際の財産よりも少なく申告していた場合、本来払うべきだった税額に対して「過少申告加算税」(税務調査等で指摘後の場合は10~15%)と「延滞税」を払うことになります。「延滞税」は令和4年1月1日から令和6年12月31日までの期間は、年8.7%(最初の2か月のみ年2.4%)と高利貸し並み。

 また、「相続財産をあえて少なく申告した」「意図的に相続税を申告しなかった」などと認められる場合は「過少申告加算税」に代わり「重加算税」(35%~50%)が課される可能性もあります。

自身の口座に夫の給与を移してやりくりしていた輝美さん

 そもそも、なぜ輝美さん名義の預金が夫の預金と言われ、そこに高額な相続税をかけられるのか……。

 相続税のルールには、一般の生活感覚では理解しがたいものがあります。そこには独特の考え方があるので、それを知らないと余計な税金がかかってしまうことがありますから、ぜひ知っておいていただきたいと思います。

 輝美さんが追加で申告するよう求められた理由は、法律では「夫の稼いだお金は夫のものである」と考えられているから。輝美さんの夫は上場企業の役員、輝美さんは専業主婦で2人の子どもを育て上げました。結婚して約30年間、お金の管理はすべて輝美さんの仕事。夫の給与口座から毎月生活費を引き出し、それを自分の口座に入れて家計をやりくりしていました。

 そして、余ったお金で友達と旅行したり、時には子どもや孫にお小遣いをあげたりしていました。それでも使いきれなかった分が貯まって3000万円になったといいます。税務署はこれを「夫の財産だ」と言っているわけです。

「扶養義務者の生活費を賄う」範囲であれば生前は問題なし

 こんなことを言うと「夫の給料は夫だけのものではない!」と非難を浴びそうですが、税務署は何も「夫の稼いできたお金を勝手に使ってはいけない」と言っているわけではないのです。夫の給料でエステに行こうと、ブランドバックを買おうと、海外旅行をしようと、税務署の関知するところではありません。それに、夫の口座から給料を引き出して自分名義の口座に入れたからといって、それが「扶養義務者の生活費を賄う」という範囲であれば、何の問題もないのです。ですから、この行為を「贈与だ」なんて言いません。

 しかし、税務署はこういったお金は預金の名義が妻であったとしても、実際は夫の財産であると考えています。妻は財産の管理者であっても、所有者ではないということ。

 夫の生前時は贈与に当たらなくとも、相続のときはそうはいきません。相続税の調査では、「妻名義の家計費通帳は夫の財産なんだから、相続税の対象だ」と言ってくるのです。

 とくに問題になりやすいのは、妻や子ども、孫名義の預金や証券口座にたんまりとお金が残っているケース。税務署には強力な調査権限があり、亡くなった方のみならず、その家族の預金口座や証券口座を調べることができるのです。