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「生活者の日常に影響」はこれから? 専門家や事業者が語る「物流の2024年問題」の現状とは
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施行前には報道や情報番組などで話題になった「物流の2024年問題」。4月からの規制適用後、日常生活に欠かせない物流業界の変化は、生活者に変化をもたらすのでしょうか。物流研究が専門の東京経済大学経営学部の宮武宏輔准教授と、ヤマト運輸株式会社サービス商品部係長の工藤洋平さんに、それぞれお話を聞きました。
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「物流は人体にたとえると、血管のようなもの」
働き方改革関連法の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」。通称「物流の2024年問題」(以下、規制)は物流コストの上昇など、多くの影響があると目されてきました。規制適用後の変化としては、国内宅配事業最大手のヤマト運輸が6月10日より置き配を本格スタートするなど、目立つ動きはあるものの、具体的な影響は利用者にあまり見えていません。
そうした状況について宮武准教授は、「これまで長時間労働が常態化するなど、長距離を中心とした幹線輸送の労働環境を改善するのが、2024年問題の主な目的」と説明。今回の規制は中長距離輸送のほうが、影響が大きいためと話します。
「ただし、物流というのは人体にたとえると、血管のようなもの。順調に流れなければ、大きなトラブルになります。コロナ禍にあったトイレットペーパーなどの不足といった状況は、物流が滞ったことが要因のひとつです。物流業界の課題や変革は、生活者の日常に影響を及ぼします」
ヤマト運輸の工藤さんは、「中長距離の輸送については、パートナー企業にご協力いただいている部分もあります」としながらも、業界全体として規制適用後の課題は多いと語ります。
「長距離輸送では、たとえば従来は1名で運べたものが2名体制になる区間が出てくると、その分の人員確保やコストが増えます。また、中長距離輸送で影響が出れば、今後は宅配便の配送までにかかる時間が長くなるエリアが出てくる可能性も。そうした影響を最小限にするため、現在はパートナー企業とともに物流の効率化に向けて、いろいろな工夫をしています。そうした努力で、一定の吸収ができている状況ですね」
物流業界での工夫の一例としては、配送センター間で東京-大阪の輸送を行う場合、浜松や名古屋などで中継。折り返し運行により、規制の上限時間を超えないような取り組みが行われているようです。
ただし、「工夫だけでは吸収しきれない課題も出てくるという認識です」と語る工藤さん。宮武准教授も、「本当に影響が出てくるのは、これからだと思います」と話します。
契約更新の条件交渉で「コスト増の価格への転嫁にタイムラグ」
4月に適用された規制の影響について、宮武准教授が「これから」と言うのは、企業間の契約内容は、変更までに一定の期間が必要になるためです。「4月以降の状況を見て、従来の契約条件を見直す場合など、コスト増の価格への転嫁にタイムラグが生じます」と説明。
「少し話がそれますが、宅配便は大口顧客の契約単価が話題になるケース。報道などでは単価だけが注目されますが、実は見えない内訳も重要です。荷主側が一定の仕分けなどまでして渡す場合、配送業者の負担・コストは下げられるため単価を下げられます。もちろん逆のケースでは単価が上がるため、金額だけでは判断できない要素も。そうした作業領域も含めての価格交渉は、時間がかかると思いますね」
企業間契約の性質に加え、宮武准教授は「一般の宅配便利用者による、置き配やコンビニ受け取り活用の拡大などで、再配達の減少が進むかどうか」も、今後の展開に影響があると指摘しました。
また、ヤマト運輸では「コスト上昇など外部環境の変化を踏まえ、法人のお客様については、プライシングの適正化に向けて協議を進めてさせていただいています」と工藤さんは話します。
こうした話を総合すると、価格変更といった影響は利用状況などによって、抑えられる可能性があるといえそうです。