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「こんなことが日本で起きていいのでしょうか?」日本のシングルマザーの過酷な実態 世界に衝撃与えたオーストラリア人監督の真意
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「元旦那が怖い」「子どもにバレたくない」 出演者集めに大苦戦…
実は同作品プロデューサーを務める及川あゆ里さんも母子二代にわたるシングルマザーの経験を持っていました。
とはいえ、監督自身はそこまで詳しい状況は知らなかったと言います。
「ゼロから始まったテーマなので、その耳に入った話以外は何も知らなかったです。だからリサーチを深くまでやりました。僕は気づいてほしいんですね。違うかもしれないって思うことを一番伝えたいです。苦しんでいる人たちに、差し伸べたその手を取ってほしいんです。そこはたぶん日本の特徴だと思いますね。プライドがあるので。でも、恥ずかしいことではない。国からもらえる場合は必ずサポートをもらってほしい」
撮影を始める前に難航したのが、出演者を集める作業でした。
「1番のチャレンジは出てもらう方を探すことでした。先ほどの耳に入ってきたシングルマザーの方にはみんな断わられたんですね。みんな映画には出たくないと言いました。元旦那が怖い、子どもにバレたくない、いじめがあるからって。だから、シングルマザーを支援する日本全国の団体やNPOに連絡したんですけど、映画に出ているハートフルファミリー以外は誰も返事してくれなかったですよね。すごい不思議なことでした」
状況は子ども食堂への打診でも同じでした。
「東京に850か所、子ども食堂があるんですけど、1日かけて半分の400か所ぐらいにメールして返事は4か所だけでした。その4か所の中で、3か所はごめんなさいで1か所だけ協力しますよと言ってくれたのが世田谷区の上馬子ども食堂です」
映画に登場する専門家に日本人はごくわずかです。これにも理由がありました。
「外国人のおじさんが多いってよく言われるんですけど、理由はちゃんとありますね。まずは日本人の女性エキスパートの声が欲しかったんです。大学の先生とか必ず必要だなと思って、すごく深くまでリサーチしました。いろんなシングルマザーの論文も読んで、有名な大学の先生全員にメールしたんですけど、全員に無視されたんですね。その道の専門なのに誰も協力したくない、できない。だからみなさんの言う“外国人のおじさんたち”に出てもらうしかなかったんですよ。それはとてもありがたいことでしたけど、そういう出演交渉が、めちゃ大きいチャレンジでした」
返信すらない状態に絶望しながらも協力的だった団体を頼り、そこから出演者を紹介してもらって点と点をつなげていきました。撮影開始は21年8月から。シングルマザーとしての生活を聞きたいのに、なかなか話してくれないなど、そこでも一筋縄ではいかない壁がありましたが、22年末にクランクアップとなりました。
なぜ日本のシングルマザーは就業率が高いのに苦しいのか オーストラリアと比較
映画には複数のシングルマザーが登場し、それぞれの経験を語っています。また、14年の銚子事件、15年に川崎で起きた中1男子殺害事件にも触れ、貧困がもたらす問題の悲惨さを伝えています。
日本のシングルマザーが苦しい原因については、「やはり仕事ですね。85%がフルタイムで働いているのに56%が貧困になっている。最初はあり得ない数字だと思いました」と指摘します。就業率は高いのに、賃金が十分ではありません。厚生労働省の18年の調査によると、子ども1人のシングルマザーの平均年収は約175万円未満、子ども2人だと約215万円未満です。7人に1人が生活保護を受けています。養育費を払わない元夫も多く、外国のように運転免許やパスポートを没収されるようなペナルティーもありません。
「最初、実は1人親の映画を作ろうと思ったんですよ。シングルファーザーとシングルマザー。もちろん、パパたちも大変だと思うんです。でも、貧困率が全然違うから、今回はシングルマザーにしようというのを途中で決めたんですね」
さらにマカヴォイ監督は、日本は行政の支援も十分でないと訴えます。母国との比較で、こう話しました。
「オーストラリアではシングルマザーになった瞬間にどこへ行けばいいか調べなくても分かります。窓口でも『2週間ごとにこのぐらいもらえます。今日から始まります。はい、どうぞ』という感じです。日本の場合は市役所に行っても情報がバラバラすぎて窓口が分かりにくい。それが一番大きな違いだと思います。あと、よく聞いたのが、市役所のおじさんが変な質問をする。あなたの旦那どこ? なんで別れたの? とか。だからやっぱりいいやと思って自分で頑張るっていう選択になるんですね」
オーストラリアでもフルタイムの収入は「十分かと言えば、そうではないと思います」との見方です。「ただ、最初からどこへ行けばいいかすぐ分かって、不安がないんですね。足りない不安はあるかもしれないですけど、お金をもらえない、どうしようという不安がありません」。さらに、働くママを後押する文化も浸透しています。「ベビーシッターは普通に学生がアルバイトとしてやっていますし、自分も頼んだことがあります。日本はほかの人の家に入ることがなかなかないですよね」と付け加えました。