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「こんなことが日本で起きていいのでしょうか?」日本のシングルマザーの過酷な実態 世界に衝撃与えたオーストラリア人監督の真意

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・水沼 一夫

「手当をもらうこと自体が敗北」 代々受け継がれる“離婚は恥”という教え

マカヴォイ監督(中央)の作品には複数のシングルマザーが出演している
マカヴォイ監督(中央)の作品には複数のシングルマザーが出演している

 日本のシングルマザーが貧困から抜け出すには何が必要なのでしょうか。

「制度が必要ですね。シングルマザーの声を聞くことも必要です。あとは上から目線にはしたくないですけど、ママたちにも教育が必要だと思います。元旦那の7割が養育費を払ってないのは非常に問題ですね。どこの国にも逃げたい男はいるんですよ。でも、他の国は逃げたいのに逃げられないという制度ができているから払うしかない」とマカヴォイ監督。「海外のモデルを見れば、どこの国が一番成功しているのか分かります。まず国はそれを調べてほしい」と続けました。

 また、日本には長らく離婚は恥ずかしいこと、という概念がありました。行政から手当があっても、「みっともない」「かっこ悪い」と自分を責めて受け取らず、離婚は自己責任との風潮もいまだに残っています。しかし、マカヴォイ監督は「自分ははてながいっぱいありましたね」。そもそも制度としてある支援を受けないことは、「おかしい」と異を唱えます。

 及川さんは、「私もシングルマザーやってましたけども、手当をもらうこと自体が敗北じゃないですけど、国から何か助けてもらい援助されるのは恥ずかしいなっていう思いがありました。母もシングルマザーだったので、絶対に人に知られちゃいけないとやっぱり身内から言われて、国から補助をもらうなんていうのはもうあり得ない、みっともないからダメだって言われ続けてきているので、1円も援助を受けない。私もそれを聞いていると、そうしないことがかっこいいみたいな思い込みもあって、永遠に続きますよね。日本人の自分の責任は自分で取るみたいな考え方自体の根底から覆さないと何も変わらない。国が変わっても行政がいろんなものを準備しても、たくさんの方が手を差し伸べようと思って準備をして、食べにきてください、何がありますよと言っても、そこに行くという行動を起こすだけのマインドがないというか、そこをたぶんライオーンは強く言いたかったのかなって思っています」と話しました。

「ミサイルをたくさん買っている国なのに貧困」 “経済大国”日本への違和感

11月に新宿で上映されると連日満席に【写真:Hint-Pot編集部】
11月に新宿で上映されると連日満席に【写真:Hint-Pot編集部】

 日本は近年、経済が低迷していると言われても、世界をリードする経済大国の一つです。しかし、シングルマザーの問題を調べていくうちに、マカヴォイ監督は大きなギャップ、違和感を抱くようになります。

「この映画を撮る前は、20年住んでいた自分はまさか日本に貧困はないでしょうと思っていたんですよ。だから隠れている貧困ということだと思います。アフリカとは全然違う貧困で、目の前で分かるものではないんですよね。電車の中で目の前に座っている学生さんも、もしかして食事を食べていないかもしれない。でも、GAPの2000円のセーターを着ているから貧困かどうか分からないんですよね。G7(先進7か国)の国なのに、ミサイルをたくさん買っている国なのに貧困。それが見えないから、より深刻だという思いはあります」

 映画に制作費はなく、インタビューから映像の編集作業まで実質1人でこなしました。

「予算がゼロだったので、完成まで2年ぐらいかかったんですけど、仕事やりながらやったという感じです。時間がある時にインタビューを撮って、時間がある時に編集して。2022年の最後の3か月は全部仕事を辞めて、この作業だけにしたんです。どうしても終わりにしたくて、完成したくて」

 映画は予想以上の反響を呼びました。「1日10人ぐらい入ってくれればいいかな」「赤字になってもとにかく広めていきたい」と話していたところが、まさかの連日満席。英訳も入るため、海外から見に来た客もいました。

「驚きましたね。ドキュメンタリーはなかなか映画館で上映するのが難しいです。本当にニッチな映画ですし、特に社会課題のドキュメンタリーなので。でも、まさか満席。毎日満席というのはたぶん映画館もびっくりしたと思います」とマカヴォイ監督。

『取り残された人々~』はシリーズ化する予定で、第二弾は「子どもの自殺」をテーマに撮影を開始しています。

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・水沼 一夫)