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コロナ禍で風俗業界に入ったシングルマザー 尾野真千子が「命がけ」で挑んだ理由とは

著者:関口 裕子

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(c) 2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ
(c) 2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

 新型コロナウイルス流行の影響を受けた生活が長引き、大なり小なり精神的な疲れを感じている人は多いでしょう。収入という生命線にも危機が訪れ、焦燥感を覚えている人も珍しくはありません。そんな時、人は何を大事にして、どう生きるべきなのか。生活に困窮して風俗の世界に入ったシングルマザーを描く映画『茜色に焼かれる』では、尾野真千子さんが答えの1つを全身で表現しているようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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経営していた店を閉めて仕事を奪われ…誰にも状況を言わず“強さを演じる”母

 コロナ禍における母子家庭の貧困が、さらに問題となっている。コロナで職を失い、生活に困窮したシングルマザーや非正規雇用の女性が性風俗業界に職を得るも、緊急事態宣言でその収入も途絶えることが多いという。弁護士やボランティアが運営する、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」にも、相談に訪れる女性がこの3か月で1.7倍に増えたと、1日付けの朝日新聞は伝えた。

 石井裕也監督の新作『茜色に焼かれる』の主人公・田中良子も、そんな昼夜ダブルワークで中学生の息子を育てるシングルマザーだ。演じるのは尾野真千子。河瀬直美監督がカンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞した『萌の朱雀』(1997)で、中学生の時に主演デビューした。

 2011年にはNHK連続テレビ小説『カーネーション』のヒロインに抜擢。ファッションデザイナーの小篠綾子がモデルの糸子を演じ、朝の顔になった。加えて河瀬監督の『殯の森』(2007)、是枝裕和監督の『そして父になる』(2013)など、国際映画祭受賞作品のヒロインとしても演技的な評価を不動のものに。今年公開された藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』(2021)、瀬々敬久監督の『明日の食卓』(2021)も注目すべき作品だ。

 映画『茜色に焼かれる』はコロナ禍という現実に沿った設定で描かれる。夫(オダギリジョー)を高齢者の過失運転で亡くした良子はコロナ禍の影響を受け、営んでいたカフェの閉店を余儀なくされる。次にスーパーマーケットの生花コーナーで働くが、同様にコロナでアルバイトを失った取引先の娘に職を奪われる。

 アラフォーの良子に残されたのは風俗店の仕事のみ。それでも人並外れた学力を持つインドアな中学生の息子・順平の未来を閉ざしたくないと、置かれた状況を愚痴ることも、誰かに告げることもなく明るく生きている。