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韓国版「赤ちゃんポスト」の物語 すっぴんで熱演する42歳ペ・ドゥナ出演を決めた理由
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今年10月で43歳を迎える韓国俳優ペ・ドゥナさん。19歳でモデルとしてデビューしましたが、舞台俳優の母から影響を受けて俳優の道に入りました。これまで韓国映画以外にも日本映画と米国映画に出演。そのうち1本は是枝裕和監督の『空気人形』です。今回の『ベイビー・ブローカー』は是枝監督と2度目のタッグとなり、何とノーメイクで出演しています。ガサツで優しさを感じられない女性刑事という役どころは、これからの役者人生で大きな意味を持つかもしれません。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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赤ちゃんの“買い手”を探す母とブローカー 韓国版赤ちゃんポストをめぐる物語
日本では、子どもができたとしても経済的な不安から結婚できない(しない)ケースがしばしばあると報じられる。それでも産む決心をした、またはやむなく出産に至った女性は、シングルマザーになるしかない。その場合、出産後の責任は女性側が負う形になることが多く、そこにはさまざまな悲劇も生まれている。
是枝裕和監督が韓国で製作し、第75回カンヌ国際映画祭で高い評価を得た最新作『ベイビー・ブローカー』は、そんな子どもたちを救済しようと教会が設置した「ベイビーボックス(赤ちゃんポスト)」をめぐる物語だ。
登場人物はシングルマザーのソヨン(歌手のIU)と彼女がベイビーボックスに託した産まれたばかりの子ども、その子を高値で売ろうとするブローカーのサンヒョン(ソン・ガンホ)と相棒で児童養護施設育ちのドンス(カン・ドンウォン)。そして彼らを現行犯逮捕しようと、スジン刑事(ペ・ドゥナ)とイ刑事(イ・ジュヨン)が見張る。
シングルマザーとブローカーは、養父母(子どもの買い手)を探して韓国を縦断する旅の中で心を寄せ合い、ある種の家族のような関係を描いていく。一方、彼らが早く行動を起こすことを願いながら付いて行くスジン刑事らの目的は手柄をあげること。多分に胡散臭い。
ペ・ドゥナの醸す雰囲気に託された刑事のキャラクター
スジン刑事、イ刑事ともに女性。彼女たちはブローカーたち一行が安ホテルに宿泊している時も車の中で見張りを続ける。当然、着替えはなくなり、風呂に入ることもできず、不衛生極まりなくなった挙げ句、夫に張り込み場所まで着替えと食べ物を持って来させる。これまでの刑事ものでは、何日も家を空ける夫に着替えを届けるのは妻だ。ここでは一般的な男女の役割が逆転している。
スジン刑事は、子どもをベイビーボックスに託したソヨンに厳しい。「捨てるなら産むな」と言う。これを女性であるスジン刑事が言うことで、ここまで女性的な感情を放棄しているのにはたぶん事情があるのだろうと観る者に思わせる。でも細かいことは一切描かれない。それらの物語はすべてペ・ドゥナの醸す雰囲気に託される。
ちなみに是枝監督いわく「捨てるなら産むな」はベイビーボックスに寄せられる最も一般的な意見なのだそう。マジョリティ代表として描かれるスジン刑事の変化が見どころというわけだ。