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カニ酢は必要か問題 栄養学でみれば理に適っている理由 栄養士が解説
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教えてくれた人:和漢 歩実
クリスマスやお正月など、豪華な食卓を囲む機会が増えるシーズン。ゆでガニを用意する家庭もあるでしょう。カニといえば、飲食店などでは「カニ酢」が添えられることもありますが、なぜなのでしょうか。カニと酢の組み合わせの相性とは? 栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。
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カニ酢が使われるようになった理由
日本人がいつからカニを食べるようになったのか、明確にはわかっていませんが、ズワイガニでいえば、安土桃山時代には越前地方で漁獲されていたとみられています。江戸時代になると漁法が改良され、漁獲量が増加。しかし、保存がきく干物などにできず、傷みが早いことから、あまり遠くへ運ぶことができませんでした。輸送環境が整い始めた明治時代以降に、次第に都市部にも広がっていったとみられています。
カニ酢の登場についても、定かではありませんが、一説によるとカニの臭みを取るために使われたといわれています。今では、流通の発展により新鮮なカニが各地で手に入るようになりました。カニにカニ酢が添えられるのは、新鮮なカニが手に入りにくかった時代からの知恵が発展し、現代にも定着したと考えられます。
カニ酢は一般的な酢とは異なり、すし酢などと同様に、砂糖や塩などを加えた「合わせ酢」で、料理に合うよう食べやすく調整されたものです。カニを食べる際にカニ酢が必要かどうかは、好みによります。酢をつけなくてもカニのおいしさを味わえますし、ほかの調味料をつけても構いません。
カニと酢は栄養面で相性が良い?
カニは、高たんぱく質の食品です。たんぱく質は、筋肉をはじめとするあらゆる細胞の原料となります。魚もたんぱく質が豊富なことで知られていますが、脂質がほぼゼロに近いカニのほうが、魚よりも低エネルギーになります。高価なので日常的に食べるものではありませんが、ダイエットに良い食品といえるでしょう。
また骨や歯の健康に重要なカルシウム、代謝を高めたり味覚を正常にしたりする亜鉛、鉄の吸収率をアップさせる銅などのミネラルが豊富です。
一方、酢は、米や麦といった穀類、リンゴやブドウといった果実などを原料にして、アルコール発酵させた後に酢酸発酵させた液体調味料です。主成分は酸味のもととなる「酢酸」。近年の研究では、内臓脂肪を減らしたり、高血圧を抑制したり、血中脂質を低下させる作用も注目されています。
以上から、より高い栄養メリットを得たいのであれば、カニはカニだけで食べるよりは、酢と合わせたほうが良いでしょう。適量のカニ酢をつけて食べるのは相性が良いと言えます。
ちなみに古代中国から伝わる薬膳の考えでは、カニは「体を冷やす食べ物」とされます。そのため、中国ではカニを食べる際には体を温める紹興酒やショウガも一緒に食すそうです。
日本でカニを食べる際に、酢と合わせることを現代の栄養学で考えてみれば、理にかなっているでしょう。酢の成分である酢酸には、血流を促進し、細胞を活性化する働きが知られています。カニと酢を合わせることは、前述のカニの臭みを取るだけでなく、昔の人は経験上、良いことを知っていたのかもしれません。
(Hint-Pot編集部)
和漢 歩実(わかん・ゆみ)
栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾