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仕事・人生

「育児をした記憶がない」 仕事に邁進する30代女性が覚えた葛藤 米農家転身で手に入れた充実の生活とは

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

仕事に邁進する日々 働き方と向き合う“事件”が…

 プライベートでは、ディーラー時代に知り合った4歳年上の配偶者と22歳のときに入籍し、26歳で長男を出産。「働くことが大好き」という西田さんは、1年間の産休を経て、迷わず復職しました。そこから5年間近く、転職で経験を積み、働けることの喜びを満喫する日々だったと振り返ります。

 一方、子育ては配偶者と親に任せっきりになっていたそうです。「自分でもちゃんと育児をした記憶がない」ほど、仕事中心の生活を送っていたとか。観光施設で働いていたある日、西田さんが「自身の働き方」と向き合う“事件”が起こりました。

「子どもが未就学児だったころ、保育園でほかの子に手をあげたり乗っかってしまったりしたことがあったんです。本当の原因ははっきり分かりません。ただ母から『小さいときに子どもと一緒にいる時間が少なかったからでは』と指摘され、私自身いろいろと考え直すきっかけになりました」

「子どもが小学校に上がる前にはやめないといけないのかな、でもサービス業からは離れたくない……」そんな葛藤と闘った末、仕事とプライベートの調和を図り、両方を充実させることに考えをシフト。

 立科町内で別荘地などを管理する会社に自ら「勤務は午前9時から午後4時まで」という条件を提示して転職。求人への応募が少なく、相手先も快諾してくれたことで「子どもを学校に送り出して、迎えにも行けるようになりました」といいます。

米農家への転身で子どもとの時間も大幅に増加

 自転車ディーラーや溶接会社、観光施設に続く新天地では、お客さんの案内から不動産売買の業務など、“オールラウンダー”として活躍していました。日々、仕事に育児に奮闘。しかし、そこで冒頭の「田んぼをどうするか」という家族の問題が起こったのです。

 西田さんは、一から父親に教えを請い、米農家としてやっていく決意を固めました。1年目は父主導で、すべてを見ながら学ぶ日々。2年目も育苗から稲刈りまでの段取りを頭と体に叩き込んでいきます。3年目になってようやく、自分でも多少の段取りを任せてもらえるようになりました。

 軸足を父親から西田さんに徐々に移し、4年目の2024年は初めて田植えから稲刈りまで、すべての段取りとスケジュールを西田さんが指揮しました。「それでも、父に頼ることばかりだった」と話しますが、少しずつ自信も感じるようになってきたそうです。

 米農家に転身したことは、暮らしの上でも大きな変化をもたらしました。家族や子どもと向き合う時間が大幅に増えたのです。

「田んぼにいる時間以外は家でできる仕事なので、子どもといられます。仕事が残っていても『宿題の答え合わせをやろうね』とか、寝る前は必ず話もします。私がのめりこみそうになるのを、いい形で止めてくれる感じです」

 家族との時間を大切にしながらも、新たな取り組みにも燃えているという西田さん。次回は、米農家としてだけでなく、マルシェなど地域活性化に向けて行っている活動について伺います。

(芳賀 宏)

芳賀 宏(はが・ひろし)

千葉県出身。都内の大学卒業後、1991年に産経新聞社へ入社。産経新聞、サンケイスポーツ、夕刊フジなど社内の媒体を渡り歩き、オウム真理教事件や警視庁捜査一課などの事件取材をはじめ、プロ野球、サッカー、ラグビーなどスポーツ取材に長く従事。2019年、28年間務めた産経新聞社を早期退職。プロ野球を統括する日本野球機構(NPB)で広報を担当したのち、2021年5月から「地域おこし協力隊」として長野県立科町に移住した。