仕事・人生
50代で長野へ移住 元記者がリンゴ農家を手伝う理由 栽培を通して感じた価値
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「地域おこし協力隊」として2021年に長野県立科町へ移住した、元新聞記者の芳賀宏さん。現在、産業振興担当としてリンゴ農家のお手伝いや同地のPR活動に従事しています。連載第6回の今回は、立科町の名産であるリンゴの栽培についてです。普段、なにげなくスーパーマーケットなどで手に取るリンゴはどうやって栽培されているのか、生産者側の目線でお伝えします。
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町外からのお客さんが列を作る“リンゴの町”でリンゴ農家のお手伝い
「地域おこし協力隊」として着任以来、2シーズンにわたって私がリンゴ農家のお手伝いをしてきたのは、町にとって大切なリンゴを知りたいと思ったからです。
甘くてさわやかで、栄養も豊富。総務省の統計によると、日本人のフルーツ消費量の第1位はバナナ、次いでリンゴ、ミカンと続きます。バナナは輸入が90%以上ですから、国産フルーツのナンバー1はリンゴということになるでしょう。
農林水産省による都道府県別の収穫量割合では、首位の青森県(63%)に大きく差をつけられているものの、長野県(17%)は全国第2位。「シナノスイート」「シナノゴールド」など県産の品種も次々と誕生している、リンゴの一大産地です。
移住した立科町も、町内の果樹農家のうち80%以上がリンゴを作り、収穫期には直売所などで「リンゴ祭り」が開催され、町外からも買い求める人が列を作る“リンゴの町”です。
立科町での主力品種は、何をおいても「ふじ」です。なかでも、虫や病気から守るための袋かけをせずに栽培し、ギリギリまで日に当てて赤く発色させる「サンふじ」は甘味、パリッとした歯ごたえ、そして蜜入りが最大の特徴と言えます。立科町の方々のリンゴ好きは、買い方で一目瞭然。ひと家庭での10キロ、20キロ購入は当たり前で、10キロの箱を10個も積み込む姿にはさすがに驚きました。
冬の剪定はリンゴの成長に不可欠 木々の生命力を実感
シーズンのスタートは、剪定が始まる2月から。余計な枝を落とし、成長を見越して残す枝を決め、日当たりを考慮しながらハサミを入れる極めて重要な仕事です。枝を切ってしまえば元には戻らないので、これだけは園主さんがやるという畑が多いようです。
一方で、枝を落とすのはリンゴの成長を促すということを教えてもらったエピソードがあります。就農希望で着任した「地域おこし協力隊」隊員の同期・芳野昇さんは昨年、町内のリンゴ畑を任されることに。園主さんが亡くなり、ご親族から引き継ぎを相談されて第一歩を踏み出したのですが、いきなり難題に直面しました。
その畑にあった約200本のリンゴの木は、脚立では届かないほど高々と伸び、四方八方に枝が張り出し、お世辞にも作業効率がいい樹形とは言えなかったとか。さらに、そのせいで栄養分が分散し、なるのは小さい実ばかりだったそうです。
リンゴ栽培は大きく「普通樹栽培」と「矮化(わいか)栽培」に分けられます。普通樹は比較的大きく育てた木に実をつけさせるのに対し、矮化は整列させ、高さも枝の張り方も調整することで作業効率を高めています。どちらがいいということではなく、あくまで農家さんの感覚の問題と言っていいでしょう。矮化で栽培されているそのリンゴ畑を長く手伝ってきた方に聞くと、「(前園主が)自分で植えた木がかわいくて、なかなか枝を落とさないでいたんだよ」と言うのです。
そこで、剪定バサミのほかにチェーンソーも導入。腐乱病というリンゴ栽培では避けられない病気もかなり多く、不要な枝どころか根元から切り倒した木もあります。廃棄した枝は軽トラック20杯分を超える量で、剪定というより伐採です。寒々とした景色に「こんなに切って大丈夫かな?」と不安になりました。しかし、春に青々と葉を茂らせ、秋には立派な実をつけたのですから、木々の生命力に感動を覚えました。