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仕事・人生

「そんないい話があるわけない」 日本人女性が2度目の渡仏で手に入れた成功への道筋 レストランオーナーになるまで

公開日:  /  更新日:

著者:Miki D'Angelo Yamashita

パリの一つ星レストランで活躍する(左から)シェフのロマンさんと、オーナー・パティシエールの杉山あゆみさん【写真:Jean-Paul Fretillet】
パリの一つ星レストランで活躍する(左から)シェフのロマンさんと、オーナー・パティシエールの杉山あゆみさん【写真:Jean-Paul Fretillet】

 世界で活躍する日本人女性は年々、増加しています。フランス・パリでパティスリー(フランス菓子作り)の修業を積んだ杉山あゆみさんもそのひとり。現在は、パリのミシュラン一つ星レストランを経営しながら、デザート作りも担っています。2年間に及んだ修業後は、日本への帰国を余儀なくされました。一度は閉ざされたように見えたパリでの成功を、どのように手にしたのでしょうか。杉山さんにお話を伺いました。

 ◇ ◇ ◇

再びのパリ レストランのパティシエールに

 子どもの頃から「ケーキ屋さん」を夢見ていた杉山さん。製菓の専門学校を卒業後、地元の洋菓子店へ就職しました。そこで、本場パリでの修行を夢見て渡仏。現地のベーカリーで働きましたが、ビザの関係で、ほどなくして帰国を余儀なくされました。

 その後、さまざまな縁がつながり、パリのミシュランガイドで一つ星を獲得したスターシェフ・吉野建氏の店「ステラマリス」で働けることになります。これまでのカジュアルなビストロとは違う高級レストラン。杉山さんはそこで、飴細工やパン作りなどを学びました。

 こうして日々の仕事に励んでいたところ、新しいチャンスが訪れました。「トリュフィエール」という、トリュフを使った料理をメインにしているレストランから声がかかり、短期で働く契約で移ることになったのです。その結果、契約満了後も残ってほしいと言われ、念願だった労働ビザを手に入れました。

 杉山さんはそこで初めて、シェフ・パティシエールとしてのポジションを得ることになります。

「自分の好きなようにできる楽しさを味わうことができました。キッチンの片隅にデザートを作る場所があり、自分の居場所ができたことがうれしくて。料理人が間近で働いているのも刺激的でした。さまざまな食材を見ることで、デザートのアイデアも広がりましたね」

念願のシェフ・パティシエールに、そして結婚

トリュフィエールで活躍していた頃の杉山さん【写真提供:杉山あゆみ】
トリュフィエールで活躍していた頃の杉山さん【写真提供:杉山あゆみ】

 トリュフィエールは居心地が良く、とても素敵な職場でしたが、4年後に転機が訪れます。当時の交際相手が、フランス南西部にある町、ポーにシェフとして赴任することに。そこで、結婚して、新しい環境で働く夫についていくことを決めました。

 ポーはピレネー山脈を望む佇まいの美しい町です。30分ほどで回れるこぢんまりとしたリゾート地で、レストランは連日満席。夫婦ふたりだけで店を切り盛りしていたので、前菜やデザートを作り、洗いものなどの雑用もこなす忙しい日々でした。オーナーが三つ星レストラン「トロワグロ」のシェフソムリエだったため、自然派ワインを取りそろえていたことでも評判でした。おかげで、兼ねてからの懸案だったワインを学ぶ絶好の機会にもなったのです。

 とはいえ、キッチンの設備は整っていないし、ライバルもいない。これ以上向上できないのでは、という焦りも感じていました。また、一日中夫と顔を合わせていることも、いつしか息苦しく感じるようになってしまったという杉山さん。

 パリに戻ろうと考えていた矢先、前職のトリュフィエールが声をかけてくれます。気心知れたこの店でまた働きたいと、二つ返事で戻り、ほどなく夫とは別れました。そこで、お客様だった今のお店の出資者との出会いがあり、大きく運命が変わります。