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仕事・人生

予約ゼロにシェフは不在…パリで日本人女性経営のレストラン 一つ星獲得までの困難

公開日:  /  更新日:

著者:Miki D'Angelo Yamashita

杉山あゆみさん(左)とシェフのロマン・マエさん【写真:Miki D'Angelo Yamashita】
杉山あゆみさん(左)とシェフのロマン・マエさん【写真:Miki D'Angelo Yamashita】

 夢を叶えるには、ときに険しい道のりが待っています。現在、フランス・パリのミシュラン一つ星レストランを経営しながら、デザート作りも担っている杉山あゆみさんもそのひとり。異国の地でさまざまな危機を乗り越えながら、決してめげずに自らの力で道を切り開いてきました。フランスでどのように現在のポジションを作り上げていったのか、杉山さんに語っていただきました。

 ◇ ◇ ◇

経営者として、いい意味で手を抜こう

 前の職場「トリュフィエール」で出会った日本人のお客様が出資してくれることになり、3年ほどの準備期間を経て、パリの中心地に自身のレストラン「Accents Table Bourse(アクサン・ターブル・プルス)」をオープンした杉山さん。前職で意気投合したシェフを誘ってスタートしましたが、徐々に予約が入らない日も増え、ある日突然シェフが失踪します。

 そんなとき店を切り盛りしてくれたのは、当時スーシェフ(副料理長)で「トリュフィエール」からついてきてくれた、ロマン・マエさんでした。そこで杉山さんは、自分がオーナー兼パティシエールとして店を立て直すので、ロマンさんにはシェフになってほしいとお願いします。

 最初は「しばらく考えたい」と言われたものの、結果的に引き受けてくれることになりました。

「彼には本当に救われました。現支配人・シェフソムリエであるエティエンヌ・ビヤールも『トリュフィエール』の仲間。ふたりが献身的に働いてくれて、危機を乗り越えることができたんです。ミシュランの一つ星も、ロマンとエティエンヌのおかげで取ることができたと感謝しています」

 デザートのことしか知らないのに、オーナーになってしまった杉山さん。経営方針もなく、お金のこともあまり考えないようにしていました。

「マイナスにならなければOKというくらいの感覚で、いい意味で手を抜こうと考えていたのです。まずは、うちの店で働くのが楽しいと思ってもらえるような雰囲気を作りたいというのが一番でした」

 何もできない杉山さんに代わり、面倒な事務処理にも対応してくれたロマンさん。シェフになってからは、店をより良くしていきたいという責任感の強さも見せてくれました。杉山さんにとってほかの誰にも代えがたい、頼りになる存在となります。

「そこから変わりましたね。パートナーとして、夫婦でお店を経営している形になっていきました。見えないところまで気づいて改善してくれたり、シェフとしての責任を持って経営を手助けしてくれたりしています。おかげで、私はデザート作りに専念できてありがたい限りです」

ふたりの連携で料理とデザートが絶妙につながる

球形の飴の中に旬のフルーツが入っている杉山さんのスペシャリテ【写真:Justin De Souza】
球形の飴の中に旬のフルーツが入っている杉山さんのスペシャリテ【写真:Justin De Souza】

 ロマンさんと杉山さんの努力の甲斐もあって、客足は回復。現在は、デザートのおいしさでも一目置かれるレストランになりました。料理からデザートの流れが絶妙という高評価を得ています。5もしくは6皿のお任せ、ベジタリアンコースのハイエンドなフュージョンフレンチを楽しむことができます。

「ロマンはフルーツを使ったりして甘味を料理にうまく取り入れる一方、私のデザートはあまり甘さを強調しない。そこでバランスが取れるのかと思います」

 杉山さんのデザートのスペシャリテは飴細工。球形の飴の中には、季節ごとの旬のフルーツが詰まっています。これが食べたいと、写真を持ってきてくれるお客様もいるほど人気の一品です。

 そして、現在は店をリノベーション中。パリの飲食業界は人手不足で、優秀なサービススタッフがなかなか見つからないことから、カウンター6席を作り、厨房から直接料理を提供できるスタイルを取り入れることにしました。

「日本人の建築家の方にお願いして、エントランスは森のような雰囲気を持たせ、カウンターの壁は砂の色を使うなど、自分たちで作る器にも合う、よりナチュラルな内装に変える予定です」