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「見えない障がい」を抱える26歳シンガーソングライターの願い 苦しみ続けた青春時代、音楽が生きる意味を教えてくれた

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・砂坂 美紀

シンガーソングライターの大川ちさとさん【写真提供:大川ちさと】
シンガーソングライターの大川ちさとさん【写真提供:大川ちさと】

 3月8日が「国際女性デー」と国連で定められてから、今年で50周年を迎えます。2021年から女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた特集「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を実施してきた株式会社Creative2は、節目の年となることを記念して、今年は「女性の生き方を考える」をテーマに運営する3つの媒体で企画を展開します。

「Hint-Pot」では、「自分らしく生きる女性」にクローズアップした特別企画を掲載します。秋田県在住のシンガーソングライター・大川ちさとさんは、「見えない障がい」ともいわれる高次脳機能障害を抱えながらも精力的に活動を行っています。大病を乗り越えて、歌い続けるパワーの源はどこにあるのでしょうか。闘病生活を支え、45歳で登山ガイドとして新たな道を歩み出した母・美紀さんとの親子のストーリー。後編は病魔との闘いの先に、娘・ちさとさんが見つけた“生きる場所”について率直な思いを明かしてくれました。

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言葉でうまく伝えられなくても、歌だったら伝えられる

 シンガーソングライターの大川ちさとさんは高次脳機能障害を持ちながら、その障がいの認知度を高めるため地元・秋田県内を中心に活動。アコースティックギターを抱えて、やわらかな歌声でメッセージ性の高い楽曲を多くの人に届けています。

 言葉でうまく伝えられなくても、歌だったら伝えられる――。そこに至るまでには苦労の連続でした。高次脳機能障害は「見えない障がい」ともいわれ、記憶力や認知力が低下する脳の障がい。見た目だけではわかりづらく、その症状も人によってさまざまです。

 ちさとさんは中学生の頃から、周囲と意見が折り合わない、タイミングを考えずにやりたいことをやってしまう、やるべきことを忘れてしまう……など、生きづらさを抱えていました。母の美紀さんから「普通に考えて」と言われても、理解ができずに母娘で衝突することが日常になっていました。過呼吸で倒れてしまうことも多くなった高校1年生のときに病院で診察してもらい、高次脳機能障害と診断されました。

「診断を受けて、いろいろなことが上手にできないのは、障がいのせいだった、ということがわかりました。できないことを知ることで、対策をすることができます。私の場合は、大切なことを忘れないようにメモを取っておいたり、周囲の人に共有したりするようにしています」

 診断を受けたことにより、ちさとさんは工夫をしながら生活を送るようになりました。それでも、時折パニック状態になることや、二次障がいの解離性障害で倒れてしまったり、声が出なくなったりしてしまうことも。人との関わりについても、母親の美紀さんがフォローします。

「大事な急ぎの返信などができないので、私からも伝えるようにしています。ちさとは今もそうですが、普通に見える状態が普通の人の200%くらい頑張っています。だから、周囲が理解することも重要だと考えて、ちさとの努力を褒めるようにしています」(美紀さん)