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若者には伝わらない? 昭和によく使われていた言葉「社会の窓」 生まれた経緯とは

公開日:  /  更新日:

著者:鶴丸 和子

「社会の窓」とは?(写真はイメージ)【写真:写真AC】
「社会の窓」とは?(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「社会の窓」と聞いて、あなたはピンとくる世代でしょうか。かつては「男性のズボンのチャック」を意味する言葉でしたが、今ではすっかり聞かなくなりました。しかも、近年は「ズボン」も「チャック」も、ファッション用語としては死語になりつつあるとか。今となってはどこか不思議に感じる、昭和の言葉たち――。今回は「社会の窓」に迫ります。

 ◇ ◇ ◇

ズボンのチャック=「社会の窓」の由来 「理科の窓」も?

 男性がはくズボンのチャックを意味する「社会の窓」。単独で使うことはあまりなく、ズボンのチャックが開いたままでいる本人にそっと伝えるとき、「社会の窓、開いていますよ」といった形で使われていました。

 この表現が生まれたきっかけは、はっきりしていませんが、諸説あります。ひとつは、1948年から放送されていたNHKラジオ番組「インフォメーションアワー・社会の窓」に由来するというもの。社会問題の裏側に切り込む番組内容が「普段見られない部分が見える」ということで、ズボンのチャックが開いた状態を「社会の窓が開いている」と呼ぶようになったとか。

 また、「元・男子学生用語」説もあります。1950年代前半、チャックがいつも開いていた社会科の先生を見て、学生たちが言い始めたのが広まったそうです。

 一方、女性の場合は「理科の窓」と呼ばれていたことがありました。「社会の窓」との対比で、学校で勉強する科目にかけて理科としたそうです。女性が履いているズボンやスカートのチャックが開いているときに、「理科の窓、開いていますよ」と間接的に伝える表現でしたが、ほとんど普及しないまま消えていった言葉とされています。

今時は「ズボン」も「チャック」も言わない

 ちなみに、「ズボン」や「チャック」も、最近は若い世代に通じないことが多いようです。ファッション用語では、ズボンを「パンツ」、チャックを「ファスナー」と呼ぶのが一般的になっています。実際にお店でも、ズボンではなくパンツとして売られているのを見かけますよね。

 ただ、パンツと聞くと、昭和世代は下着をイメージするかもしれません。パンツを今時の言葉に言い換えると「ショーツ」になります。

 そういえば、「半ズボン」という言葉も、あまり見かけなくなりました。膝より丈が短いズボンのことで、昭和の男性小学生がはいていたイメージがあります。現代は、性別問わず「ハーフパンツ」と呼ぶのが主流のようです。

 半ズボンつながりで思い出されるのが「ホットパンツ」。1970年代に登場した、股下が5センチ以下の極めて短いズボンです。当時は、女性向けの斬新なファッションとして注目されたとか。大胆な丈の短さから「ホット(熱い)パンツ」と名付けられたとされています。今は「ショートパンツ」と呼ぶのが一般的です。

 話を戻しましょう。となると、今はズボンのチャックが開いていることを本人に知らせたいとき、「パンツのファスナー、開いていますよ」と言うと通じやすいのかもしれません。「社会の窓」が通じる昭和世代が相手なら「開いていますよ、社会のなんとかが…」など、少し濁しながら伝えるとやわらかな印象になるでしょう。

 とはいえ、最近はチャックが開いていても触れないほうが配慮といった考えもあります。「社会の窓」の出番は、どんどん減っていきそうです。

 時の流れとともに、移り変わっていく言葉。世代によって通じる、通じないはあるものの、その言葉が使われていた時代や背景は共有していきたいですね。

【参考】
「日本俗語大辞典」米川明彦(東京堂出版)

(鶴丸 和子)

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)

和文化・暦研究家。留学先のイギリスで、社会言語・文化学を学んだことをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。昭和好き。
インスタグラム:tsurumarukazu