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英デザイン界の名門・コンラン家の末裔が奈良の山村に移住 古民家を再生して描く“持続可能な未来”とは
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「不便」を「住みたい」に変える、古民家再生という挑戦

今でこそ人もうらやむ快適な古民家暮らしを送るフィリックスさんたちですが、移住当初は大変だったと振り返ります。
「妥協の連続でした。8か月くらいはちゃんとしたバスルームすらなくて、仮設トイレみたいなものを使っていました」
そんな厳しい生活を支えていたのは、ふたりの中にあった明確なビジョンでした。
「この100年くらい誰も住んでいなかったような古民家を、現代的な水準まで引き上げたかったんです。設備やデザインにおいて妥協のない空間を、あえて『不便そう』と思われる場所に作る、『住みたい』と思える場所に変える――それが私たちの挑戦であり、『地方でも可能なんだ』と示したかったんです」

計8か月のリノベーションを経て、生まれ変わった古民家。先人たちの知恵と、現代の技術を併せ持つ家を作り出したのです。
観光と地域が共生する、フィリックスさんが描く理想のホテル
古民家の快適な暮らしを実現したからといって、決して田舎の観光地化を歓迎しているわけではありません。
「田舎にあるホテルやリゾートなどこそ、できるだけ地域と関わりを持つべきです。たとえば、『東京の有名なデザイナーが田舎にすごいホテルを作りました』と聞くと一見、地域のシンボルのように見えるかもしれません。でも、実際に泊まった人の体験が、地域を『ガラス越しに見るだけ』のものなら、それは異質な体験でしかありません」
フィリックスさんが思い描く田舎のホテルのあり方は、使われている家具などが地元の職人の手によって作られ、食事も地元の食材などが生かされている、「地域そのものを感じられる経験」を提供できる場であること。そうすることで、宿泊者が「また戻ってきたい」、宿泊した子どもたちが「ここに住んでみたい」と思える――観光と地域ができるだけ近くに存在し、共生できる環境です。
「デザイナーとして考えるのであれば、ホテルという空間はデザインの最高峰だと思っています。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚――そのすべてに関わる設計が可能な場所。ホテルの仕事にももっと関わっていきたいですね」
みずから田舎暮らしを実践するフィリックスさんが理想とする、地域と観光が融合するホテルが具現化するのもそう遠くはないかもしれません。
