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「精子に良い亜鉛」 たっぷりとるのは逆効果? 妊活男性が知っておくべき食習慣の誤解
公開日: / 更新日:
教えてくれた人:和漢 歩実

妊活中の食生活で「男性は元気な精子のために、亜鉛を含む食品を積極的にとったほうが良い」といった話を見聞きすることがあるでしょう。実際はどうなのでしょうか。「良い」という理由だけで過剰に摂取すると、健康に悪影響を及ぼすリスクもあるようです。亜鉛をはじめ、誤解されやすい妊活男性の食習慣について、栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。
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亜鉛が「良い」といわれる理由
亜鉛は、私たちが生きていくうえで欠かせません。細胞の成長や分裂、たんぱく質やDNAの合成、免疫機能や味覚の維持など、多くの生理機能に関与しています。体内ではたんぱく質と結合した状態で、皮膚や骨、筋肉、腎臓、肝臓など、あらゆる細胞に存在する栄養素のひとつです。
とくに男性は、前立腺や性腺に亜鉛が高濃度で含まれ、精子の形成や性ホルモンの合成に深く関係しています。体内で亜鉛が不足すると、男性ホルモンのテストステロンの合成や分泌が低下し、性機能に影響が出る可能性も否定できません。妊活男性が摂取すべき代表的な栄養素として亜鉛が挙げられるのは、このためでしょう。
体内で作り出すことができない亜鉛は、食事から摂取する必要があります。多く含む食品の代表例が、カキ。そのほか、煮干し、レバーや牛肉などもあります。
体内で作り出せない亜鉛 不足しやすい人とは
男性の亜鉛の摂取推奨量は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年)」によると、18~29歳は1日9.0ミリグラム(上限40ミリグラム)、30~49歳は1日9.5ミリグラム(上限45ミリグラム)です。一例として、カキ1個(生、むき身20グラム)あたりの亜鉛が2.8ミリグラムなので、4個で十分摂取できていることになります。通常の食生活を送っていれば、亜鉛が欠乏することはほとんどありません。
不足しやすい人として考えられるのは、まず、カップ麺などの加工食品を頻繁に食べる食習慣を送っているケースです。加工食品には、亜鉛の吸収を妨げるとされる添加物(リン酸塩、ポリリン酸など)が含まれていることがあります。また、肉や魚など動物性食品を一切とらず、植物性食品しか食べない人も亜鉛は不足しやすいです。
加えて、アルコールのとりすぎにも注意してください。亜鉛はアルコール代謝に必要なので、飲酒した分、体内の亜鉛が消耗し、排泄されやすくなります。妊活中の飲酒というと、女性だけが気をつけたら良いと誤解している人も多いのですが、男性も同様に見直してほしい習慣です。
禁酒する必要はありませんが、健康を維持するためにも適量を心がけましょう。個人差があるものの、厚労省がまとめた「飲酒ガイドライン」によると、男性の場合は1日あたりビール(アルコール度数5%)ならば1リットル、ワイン(同12%)ならば400ミリリットルです。
過剰摂取に注意 長期にわたると健康への悪影響も
亜鉛のサプリメント摂取を習慣化している人もいるかもしれません。適量であれば問題ありませんが、良いと思って過剰に摂取し続けていると、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
1日の上限(18~29歳は40ミリグラム、30~49歳は45ミリグラム)を超える大量の亜鉛を短時間で摂取すると、吐き気や嘔吐、食欲不振、胃痙攣、下痢、頭痛などの不調につながる可能性があります。また、長期にわたり亜鉛を過剰摂取した場合、銅や鉄の体内吸収が阻害されて貧血になったり、免疫機能が低下したりするなども懸念されています。
亜鉛は精子の形成に関与しているので、確かに「精子に良い」といえます。しかし、亜鉛をたくさん摂取したからといって「精子が増える」わけではありません。亜鉛だけに注目するのではなく、毎日の食事をバランス良く取っていきましょう。
(Hint-Pot編集部)
和漢 歩実(わかん・ゆみ)
栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾