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「女性に自衛を求めるな」痴漢抑止の啓蒙活動が物議 代表が“定期的な炎上”を「大歓迎」と語るワケ
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痴漢や盗撮の被害を少しでも減らそうと、一般社団法人痴漢抑止活動センターが女性向けに発信した自衛手段がネット上で物議を呼んでいます。背後からの盗撮を防ぐため、体を斜めにしたエスカレーターの乗り方を紹介した投稿には、一部から「女性に自衛を求めるな」という批判の声が上がるなど、賛否両論に。2015年の設立以来、さまざまな角度からの批判にさらされ「炎上慣れしているところもある。議論になるのはありがたいこと」と語る同センターの松永弥生代表理事に、10年間の活動のあゆみを聞きました。(取材・文=佐藤佑輔)
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背後からの盗撮を防ぐため、体を斜めにしたエスカレーターの乗り方を紹介した投稿が物議に
「エスカレーターを使う時は、写真のように斜め前方を向いていると、後方にも視界が届くので盗撮されにくいです。この乗り方が広がってほしい。(モデルさんをお願いして撮影しました)」
今月3日、痴漢抑止活動センターがSNS上に投稿した写真には、制服姿のモデル女性が体を斜めにしてエスカレーターの片側に立つ様子が収められています。肩にかけたスクールバッグの持ち手には、同センターが配布する痴漢抑止バッジがつけられています。
エスカレーターでの盗撮に対する自衛手段を紹介した投稿に、SNS上では「これは広まった方がいい」「私はスカート履いてる時は横向いて乗ってる」「この乗り方で『警戒してますよ』って周知されれば良いよな」といった賛同の声が多く寄せられています。一方で「なんで!! 女性ばっかり!!!」「痴漢する男を取り締まれ」「痴漢抑止活動センターなら痴漢する側を注意して下さい」といった批判の声も上がるなど、賛否両論に。中には「邪魔過ぎる」「自意識過剰」といった声もあります。
「立ち上げ当初から、痴漢抑止の活動を揶揄(やゆ)する声や、被害者に自衛を求めるなという批判は多数寄せられてきました」と語るのは、痴漢抑止活動センターの松永代表理事です。2015年、痴漢被害に悩む1人の高校生が考案した痴漢抑止バッジのアイデアに感銘を受け、バッジの製品化を目的に同センターを立ち上げ。バッジの配布や痴漢・盗撮といった性犯罪への注意喚起、啓蒙活動などを行っています。
「設立当初、ニュースで大々的に取り上げられたときには、『ばかなもの作ってる団体』『自意識過剰のえん罪増産女』などひどい言われようで『こんなバッジをつけてる女は迷惑だ』『痴漢を合法にしろ』という声や殺害予告までありました。もうひとつが『被害者に自衛を求めるなんて信じられない』という声。加害者を許さないというメッセージが広がるのはうれしかった反面、活動がニュースになる度に大量の批判やクレームが寄せられ、怖い思いをしたこともあります。加害者が悪いのは大前提ですが、処罰感情だけでは被害が減らない現実がある。被害をなくすには、処罰と自衛の両輪のどちらが欠けてもいけないと思っています」
発足から10年あまり、定期的に繰り返されているという炎上ですが、それがプラスに働いている面もあるそう。議論が巻き起こる度にバッジの認知度が増し、支援者からの寄付金も増額。当初は1個550円で販売していたバッジですが、2022年からは支援金をもとに無償配布を続けています。デザインを決める年に1度の学生コンテストは今年で11回目を迎え、これまでに累計約3万個が被害に悩む女性のもとへ。活動を続ける中で、松永さん自身、自分の中にあった偏見に気づかされる部分もあったといいます。
「批判も多かった反面、デザインコンテストの参加者、クラウドファンディングの出資者、支援者の3~4割はいつも男性が占めていたんです。私自身、数え切れないほど痴漢被害に遭ってきて、この活動を始めるまでは、男はみんな隙あらば触ってくる性犯罪者予備軍だと思っていましたが、それは認知のゆがみで、世の男性の大半は痴漢なんかしないんだと気づいた。おそらく男性の中にも、女はちょっとぶつかったくらいで騒ぐから怖い、痴漢よりも痴漢えん罪の方が多いと思っている人がいて、そこにも同じように認知のゆがみがある。男女の間の誤解や認識のズレをお互いが理解し、分断をなくしていくことが、痴漢やえん罪をなくしていく一番の近道になると思います」
今回、物議を醸しているエスカレーターの乗り方についても「賛否両論は大歓迎。議論になることで、痴漢や盗撮問題を自分ごととして考えるようになる。それが加害者を許さない社会の醸成につながっていくと思う」と松永さん。卑劣な犯罪を許さないという大前提のもと、男女双方の視点から成熟した議論が求められています。
(Hint-Pot編集部・佐藤 佑輔)
