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「日本はもっと自信や誇りを持っていい」 パリ在住アーティストが見た伝統工芸の真価と未来

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著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

若い職人も京丹後に 世界を知る河原さんがつなぐ京丹後の地域と伝統工芸

世界的ブランドと仕事をする河原さん【写真:荒川祐史】
世界的ブランドと仕事をする河原さん【写真:荒川祐史】

 現実的な課題として、伝統工芸は若い継承者が不足しています。河原さんの元にも、地域の住民から自治体トップまで多くの人々から「どうしたら良いでしょう?」と相談が舞い込むそう。そういう時は決まって「まずは皆さんのお子さん、お孫さんたちに、ここへ戻ってきてもらいましょう」と伝えています。その背景には、肌で感じる世界的な価値観の変化があるようです。

 新しさと手軽さが象徴でもあった高度経済成長期・バブル期から21世紀へ時代が移ると、脱消費主義が広がりを見せ、人々はQOL(生活の質)を重視するようになりました。「都市部は便利だし華やかだけど、生活費は高い。そこにどれだけ幸せを感じているか。地方に移って何か新しいことを始めようという人が増えているのは、日本だけではなく世界的に広がっている流れですよね」。河原さんはその流れをキャッチし、京丹後に住むことを楽しみながら、伝統工芸の技術と文化をつなぐ人材を育てようと提案します。

「伝統工芸には時間をつないできた素晴らしさがあるけれど、次をどう考えるか。未来につながる新しく若い人材をどう育てていくか。モノを作るより人を育てることが、すごく大事なんじゃないかと思います」

 和装文化を支えてきた丹後織物ですが、近年は洋装やインテリアなど新たな分野への挑戦に乗り出す若い担い手たちが登場。伝統やモノづくりの枠にとらわれず、未来へつなぎ、世界にアピールしようと、2020年には新ブランド「TANGO OPEN」が立ち上がりました。河原さんも「TANGO OPEN」と自身の代表的なシリーズ「petit usagi」とでコラボをしたり、世界への橋渡し役になったり、サポートを惜しみません。

「チームとして切磋琢磨し、刺激し合っていく。自信を持って最後までキチッとこだわり表現することができれば、伝統工芸は日本の強みになる。彼らの作品をパリや世界で見せたら、すぐに買ってくれるかは別としても、その価値は分かってくれるでしょう。後継者が少なくて大変だという伝統工芸の中ですごく頑張っている人たちがいて、それを周りがどう理解しサポートするか。少しでも次の時代につながれば良いなと思います」

 実際、京丹後と呼ばれる地域には、少しずつ若い職人が移住し始めています。東京で刀鍛冶の修行をしていた黒本知輝さん、山副公輔さん、宮城朋幸さんの3人が「日本玄承社」という鍛冶場を始めたり、高級割烹で修行したポルトガル出身のリカルド・コモリさんは飯尾醸造のお酢に魅せられて「西入る」という鮨割烹を開いたり――。何か新しく、面白いことが始まる息吹がそこかしこから聞こえてきます。

 長年パリを拠点とするため、「自分は外国人みたいなものだから」と笑う河原さん。それでも「やっぱり日本人だから日本のことは考えるし、今は天橋立に住まわせてもらっているから、できることはしたいと思って」。世界を知る河原さんの客観的かつ忌憚ない意見は、伝統工芸の担い手たちにほど良い刺激を与えるスパイスとなっているようです。

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)