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「タダでは逃がさない」女性警官直伝の痴漢撃退法にネット騒然 正当防衛? 傷害罪? 弁護士の見解は

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

駅や電車内で相次ぐ痴漢行為(写真はイメージ)【写真:写真AC】
駅や電車内で相次ぐ痴漢行為(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 駅や電車内で相次ぐ痴漢行為は、多くの女性にとって身近な脅威のひとつ。被害に遭った際の対応について困惑する声も多く、ネット上では、被害を訴えても警察官からまともに取り合ってもらえなかったという体験談が多く寄せられています。そんな中、過去に女性警察官から教わった撃退法に強く勇気づけられたという被害者の投稿が、大きな話題を呼びました。痴漢に反撃する行為は、法的にはどのように解釈されるのでしょうか。投稿者の女性と弁護士に詳しい話を聞きました。

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過去の体験をつづったところ、予想外の反響が殺到しフラッシュバックに

「痴漢された時に婦人警官から『私もされて辛かった。だから鍵を持ってる。されたら引っ掻く。DNA採取と傷つけとく為。タダでは逃がさない・・・これおすすめ』ってゆっくりまっすぐ言われた」

 先月中旬、「#警察に言われたこと」というハッシュタグとともにSNS上に投稿された痴漢撃退法。痴漢行為の証拠を得るための具体策は、1.6万件のリポスト、17万件もの“いいね”を集めるなど、大きな反響を呼んでいます。

 ネット上では「こういう手段は教えてもらわないと分からない」「こうゆう知識を警察官ももっと大々的に広めればいいのに」「爪でひっかくのじゃダメなんかな?」「私も1人で歩いてる時は鍵を握りしめてますよ。ブッ刺すつもりでいます」「専用の器具が売られたらいいね、百均とかに」「学校で防犯グッズ配って欲しいな」「これをみんなでやってくれれば冤罪も減るかもしれない」といった共感の声や、「これ一歩間違えたら、傷害になるのでは?」「人違いだとどうするんだろう?」という疑問の声など、さまざまな反応が寄せられています。

 30代の女性で、福岡出身で現在は静岡在住という投稿者。「『#警察に言われたこと』というタグがはやっていたので、ふと思い出した過去の経験を何気なく投稿しました。男女ともにライフハックとして広まっているようで、それだけ痴漢や痴漢冤罪におびえながら毎日を過ごしている人が多いのかとあらためて思いました」と投稿の経緯と受け止めを語ります。

 一連の反響については「『あの頃の自分に教えたい』というコメントや、悲惨な被害エピソードを語っておられる方もおり、胸が締め付けられる思いでした。一方で、明らかに男性への加害目的でより鋭利なものを提案する意見もあり、新たな問題に発展しないか心配にもなりました」と振り返ります。

 投稿者の不安は的中。投稿はどんどん拡散され、女性のもとには数多くの意見が殺到します。中には、投稿内容をうそ呼ばわりする声や、「これ以上男を追い詰めるな」という的外れな批判も。痴漢冤罪(えんざい)も等しく許されないと表明した投稿者に対し、「痴漢を擁護するな」という女性側からの批判意見まで寄せられたといいます。あまりの反響の大きさに、通知が来るたびに過去の被害がフラッシュバックし、一時的にアカウントに鍵をかけることも……。痴漢問題について体験談をつづったつもりが、炎上によりさらなる二次被害に巻き込まれてしまいました。

 時間がたつにつれ、通知やそれによるフラッシュバックも落ち着き、取材に答えられるようになったという投稿者。一連の騒動を振り返り、「私自身、痴漢の被害者であると同時に、私の知り合いの男性、同級生の男性も女性による痴漢、男性による性犯罪、痴漢冤罪を経験しており、正直この問題は男だから女だからという考えは持っておりません。鍵でひっかく行為は法律上どうなのかと気になるところではありますが、こんなことをしなくても安心して生きていける世の中になって行けることを切に願います」と話しています。

鍵でひっかく行為に違法性は? 弁護士「正当防衛が成立する可能性が高い」

 実際のところ、痴漢への反撃として鍵でひっかく行為に違法性はあるのでしょうか。日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ樋口国際法律事務所の樋口一磨弁護士は「理論的には、ひっかく時点で傷害罪の構成要件に該当します」とした上で、次のように解説します。

「ただし、正当防衛が成立すると、違法性が阻却される。つまり『傷害罪にあたる行為はあったが、違法ではなく罰せられない』というロジックになります。正当防衛は急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした場合に成立します。ここで仮に『防衛の程度』を超えてしまうと、過剰防衛となります。過剰防衛になると無罪にはなりませんが、情状により刑を減軽し又は免除されることがあります」(樋口弁護士)

 程度問題にはなるものの、「痴漢行為を受けたことに対し、自分を守るために鍵でひっかく程度であれば、正当防衛が成立する可能性が高い」といいます。一方で、ひっかいた相手が人違いだった場合はどのような問題があるのでしょうか。

「人違いだった場合、つまり、自分に対する違法な侵害がないのにあると誤診した場合は、『誤想防衛』という問題になります。客観的には正当防衛の要件を満たしていないため、正当防衛にはならないのですが、『故意』がないものとして犯罪としては成立しません。しかし、『違法な侵害がないのにあると誤診したこと』について過失がある場合には、過失傷害罪が成立します。名誉棄損については、刑法では過失による名誉棄損は罪になりませんが、民事上は損害賠償責任が生じることがあります」(同弁護士)

 正当防衛として認められるケースがある反面、痴漢行為がなかったのに誤解して攻撃した場合や、反撃があまりに過剰だった場合は罰せられる可能性もあると樋口弁護士。被害者の女性が泣き寝入りを迫られることはあってはならず、“万が一”の際の備えを巡る議論は今後も続きそうです。

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム)