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「イタリア人が見たら卒倒しちゃうかも」 知っておきたいパスタの作法 “本場”が絶対に許さないNG調理法とは
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トスカーナで出合った“人生最高のポモドーロ”

フィレンツェがあるトスカーナ地方を旅していたときのことです。世界で最も美しい田舎といわれるトスカーナには、中世の面影を残したかわいい村が点在しています。そのなかのひとつで、ちょうどお昼時になり、食事ができる場所を探しました。
すると、その村には食堂が1軒しかないことが判明。選択の余地はありません。村人たちでにぎわうその店に入り、全員の注目を浴びながら「メニューを見せてください」とお願いすると、なんと提供できるのはパスタ・ポモドーロ(トマトソースのパスタ)のみ。体格の良いマンマが切り盛りするその店は、毎日1品とワインを提供する、シンプルな食堂だったのです。
もちろんワインリストもなく「ピッコロ・オ・グランデ?(小さいの? 大きいの?)」と聞かれ、慌てて「グランデ、グランデ。あ、ぺル・ファヴォーレ(お願いします)」と頼みます。すると、びっくりするほど大きなデカンタになみなみと注がれた赤ワインが、どーんと登場。トスカーナといえば赤ワインです。
イタリア語がよくわからない私が聞いた、隣のおじさんが一生懸命説明してくれた話によると、これはこの村でとれたブドウをこの村で醸造したワインだそうで、まさに本物の地ワイン。瓶詰めして販売などもされていないワインだそうですが、これがいくらでも飲めてしまうおいしさです。
そして、ポモドーロ。マンマの手打ち麺と、自家製ポモドーロソースというシンプル極まりない料理ですが、これが私史上最高においしいパスタでした。あまりの味わいに、ちょっと言葉を失うほど。とくにポモドーロソースの完熟トマトは、旨味がぎゅっと凝縮されていて、それまで食べたどのポモドーロよりも素晴らしかったです。それを超えるポモドーロ・パスタに、今現在も出合えていないほどの絶品でした。
偶然入った食堂で、グランデサイズのワインを飲み干し、絶品ポモドーロ・パスタをたいらげるという、それはそれは幸せなランチタイムを体験しました。
イタリア人が絶対に許さない、パスタのNG調理法
話がそれてしまいましたが、イタリア人にとってのパスタは、日本人にとっての白飯と同じぐらい、大切なソウルフードなのです。ですから、基本をきちんと守って料理しないと、イタリア人の逆鱗に触れることになります。
まずはパスタのゆで方。アメリカ人がやりがちですが、スパゲティのようなロングパスタを半分に折ってゆでようとすると、イタリア人は激怒します。SNSで最近、アメリカ人(に限りませんが)がスパゲティをゆでるときにパスタを半分に折ろうとすると、イタリア人が「マンマ・ミーア!!」と叫び、十字を切りながら阻止するという映像をよく見かけますが、これは決して大げさではありません。
訪日した外国人を天ぷら店に連れて行くと、いきなり天つゆを白飯にぶっかけられて「待て待て、待て待て」となることがありますが、気持ち的にはそれととても似ているように思います。
たっぷりのお湯を使わない蒸しゆでや余熱ゆで、電子レンジゆでなどのパスタ調理法が最近、日本で流行っています。時短や水道代・ガス代の節約になりますし、家庭での調理としてはまったく問題ないと思います。ただ、伝統的な調理法を大切にするイタリア人が見たら、やはり卒倒してしまうかもしれません。
(斎藤 理子)
斎藤 理子(さいとう・りこ)
出版社で雑誌編集に携わったあと、イギリス・ロンドンなど海外に長年在住し、世界中をめぐって各地の食文化を体験。帰国後は日本国内外の食材生産者から、ミシュラン三つ星レストランや街角の立ち飲み店まで、幅広い食の現場を取材・執筆している。主な著作に「イギリスを食べつくす」(主婦の友社刊)、「隣人たちのブリティッシュスタイル」(NHK出版刊)がある。また、「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフによる連載記事を編集・監修した「田舎のリストランテ頑張る」(マガジンハウス刊)の編著者でもある。2011年には、イギリス政府観光庁よりメディアアワードを受賞。現在、やまがた特命観光・つや姫大使を務める。
