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仕事・人生

世界が息をのむ奇跡のリボン織 小さな工房が糸からつむぐオンリーワンの美と挑戦

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

長男の4代目とともに描く丹後織物の未来

4代目となる昇汰さんに教える徹さん【写真:矢野写真事務所】
4代目となる昇汰さんに教える徹さん【写真:矢野写真事務所】

 3代目が海外市場を見据えるようになったのは、2007年ころ。丹後織物工業組合の理事長で「たゆう」の田茂井勇人さん、「民谷螺鈿」の民谷共路さんと一緒に、ベルギーとフランスで展示会を開いたことがきっかけです。「数多くのブランドに見てもらった時、リボン織の反応がすごく良かったので、ヨーロッパの人に合う色味や素材感が合えば、これは勝負できるなと思いました」。そこからヨーロッパを中心にニューヨークなどに出かけ、リボン織の魅力を伝えています。

 また、海外進出を通じて、日本の展示会との違いも感じると言います。

「日本の場合、生地を見る前に値段を聞いて『うちでは無理です』とはねられてしまう。でも、海外では質が良ければ値段ではじかれることはない。『これが値段なら、それで売るから大丈夫』となるんです。ただ、僕も生地企画会社で働いていたのでわかるんですが、国内で展示会に来るのは若い人が多く、事前に予算の上限が決められている。買えないものは最初から見ませんよね。でも、国内ブランドで海外の展示会まで来るのは上席ポストの人が多いので『日本に帰ったら丹後にうかがいます』と話が早い。そういう意味でも、海外の方が広がりが生まれますね」

 家業を継いで27年。何度も苦しい時期を乗り越え、今や国内外のブランドやデザイナーから支持されるようになった「糸あそび」ですが、近年で最もうれしいことと言えば、徹さんの息子・昇汰さんが家業を手伝うようになったことでしょう。大学でテキスタイルを学び、東京で働いた後に帰郷。「全部教えるから」という3代目のもと、目下修行中の25歳。ほかにも、工房では20代の従業員が働くなど、次世代に織物の技術をつないでいます。

 糸の製造から織りまで一貫した自社生産ができるように体制を整えた徹さんは、自分でパターンを引き、服を作り上げる4代目の姿を見て思うことがあるとか。「僕は機屋としてやっていますけど、服まで含めたブランドとして売り出せるようになったら面白いと思います。糸から服まで作れるところは、なかなかないですから」。そして、これからさまざまな経験を積むであろう次世代の担い手たちにこんなアドバイスを送ります。

「人生は本当にタイミング。僕もここに来るまでに何回か織物業はやめようと思ったことがある。だけど、その時に何かしら助けてくれる人と出会うんですよね。良い人との出会いが積み重なって今がある。同時に動いたもん勝ちだとも思っています。仕事をお願いする時は、電話ではなくて、直接会いに行ってしまう。対面の強さってあると思うので」

 デジタルな世の中だからこそ、心と心の触れ合いが未来への原動力になるのかもしれません。

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)