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からだ・美容

小児アトピーとアレルギーの今 30年で変化した病気の傾向と新しい治療

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

かゆみの悪循環と治療の工夫

 アトピー性皮膚炎は、主に「皮膚バリア機能の低下」「2型炎症」「かゆみ」の3つが大きく関わっています。

 皮膚バリア機能の低下:膚が乾燥して守る力が弱まると、外からアレルゲンや細菌が侵入しやすくなります。
2型炎症:免疫の働きが偏って、アレルギーを引き起こす方向に炎症が進みます。炎症が続くことで皮膚の赤みや湿疹が悪化します。
かゆみ:炎症によって強いかゆみが生じ、子どもはどうしてもかいてしまいます。「かゆい→かく→皮膚が傷つく→炎症が悪化→さらにかゆい」という悪循環が生まれます。

「この悪循環を止めることが、治療の最大のポイントです」と長尾先生は言います。

新しい治療薬の選択肢

 毎日のスキンケアで乾燥を防ぎ、湿疹に対してはステロイドなどの抗炎症外用薬の塗り薬を使用します。かゆみを和らげるために、抗ヒスタミン薬を飲む場合も。こういった従来の治療で十分な効果が得られない場合は、新しい薬が選択肢となります。

「保湿や外用薬などの基本的な治療を行っても、悪化を繰り返したりなかなか治らなかったりする場合は、生物学的製剤やJAK阻害薬といった、いわゆる全身療法といった新しい選択肢が登場し、より多角的に治療を組み立てられる時代になりました」

 これまでの薬が“広く炎症を抑える”のに対し、分子標的薬と呼ばれる生物学的製剤やJAK阻害薬は、アレルギーを引き起こす特定の因子をピンポイントで抑えることができます。そのため、高い効果を示しながらも副作用が比較的少ないことが特徴です。

子どもにも使える薬の効果とは

 たとえば、生物学的製剤の「デュピルマブ」という薬は、アトピー性皮膚炎のかゆみや湿疹、さらには気管支喘息の発作にも関わる共通の炎症信号をブロックすることで炎症の進行を抑えます。イメージとしては、1つの電源スイッチを切ると、部屋の照明だけでなく換気扇やエアコンも同時に止まるようなものです。

 つまり、アトピー性皮膚炎の「皮膚の炎症とかゆみ」と、気管支喘息の「気管支の炎症による発作」、両方につながる共通の回路を遮断するため、両方の病気に効果を発揮できるのです。

「JAK阻害薬は“炎症を広げる命令の通話回線”を途中で切ってしまうイメージです。これらはすでに子どもにも使えるようになり、安全性と効果が確かめられつつあります」

 アレルギーについては、「自然に治るまで我慢するしかない」「薬はできるだけ使わないほうが良い」といった“誤解”が残っています。しかし、自己判断で治療を中断したり、先延ばしにしたりすることは症状を悪化させ、重症化のリスクを高めることにつながるといいます。