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「アトピーの苦しみは“死なない”からこそ」 長女の発病が転機に 皮膚科学研究にまい進する女性起業家の決意とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・白石 あゆみ

株式会社ナノエッグ 代表取締役 山口葉子さん【写真提供:ナノエッグ】
株式会社ナノエッグ 代表取締役 山口葉子さん【写真提供:ナノエッグ】

 かゆみのある湿疹を繰り返し発症するアトピー性皮膚炎。厚生労働省の平成29年(2017)「患者調査」によると、日本におけるアトピー性皮膚炎患者数は、2017年時点で約51万3000人に達し、約30年で2倍に増加しているという。敏感肌用のスキンケア商品などを手掛ける、株式会社ナノエッグの代表取締役で理学博士の山口葉子さんは、ふたりの実子がアトピー性皮膚炎の症状に悩まされたことがきっかけで皮膚科学研究を始めた。自身も子ども達とともに長年アトピーと闘ってきた山口さんは、「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上」を目指した研究を続けている。山口さんがアトピーに悩む親子に伝えたいメッセージとは。

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「自分のせい?」 生後3か月で長女がアトピーを発症

 元々は物理学の研究を行っていたという山口さん。転機となったのは、長女が生後3か月でアトピーを発症したことだという。湿疹はほぼ全身に現れ、皮膚が割れて血がにじむほど。母親である山口さんが「この子はどんな顔をしていただろう」と思うほど、酷い症状が続いていたそうだ。

「長女がアトピーになったとき、最初は自分のせいじゃないかと思いました。私自身も子どもの頃に喘息だったので遺伝性ではないか、私が妊娠中も仕事ばかりしていたからではないか、研究中に使った化学物質のせいでこうなってしまったのではないかと、自分を責め、とにかく悩みました」

 長女がアトピーを発症してからというもの、通院はもちろん、良いと言われるものは片っ端から試してきたという。

「少しでも良くなればと、民間療法のようなものも試しましたね。海に連れていく、烏龍茶のお風呂に入れる、カーテンや布団を抗菌の高級なものに変えるなど、ものすごく多くのお金をかけましたが、全然良くなりませんでした」

 当時、通院していた病院からは、「ステロイドを使うのは娘のためにならない」と脱ステロイド療法を勧められ、試したこともあった。しかし、ステロイドを使用しないのは、想像を絶する過酷さだったという。娘はかゆみが強いため、夜は2時間おきに目覚めてしまう状態。当時、論文作成に追われていた山口さんは、2時間おきに娘をあやしながら、隙を見ては仕事に取り掛かる生活。夫と交代で娘の世話をしていたが、ほとんど眠れない日々が続いた。

3日で回復! 研究者の道を変えるきっかけとなった薬との出会い

 そんなある日、実母のすすめで青森県のとある病院にかかることになった。たまたま良い医師がいると聞いた実母が手紙を書いてくれたという。しかし、当時は予約から半年待ち。わらにもすがる思いで、評判の医師を訪ねた。

「その先生から処方された薬を塗ると、うちの娘の場合はなんと3日で劇的に症状が緩和されました。娘はかゆさを我慢するため、いつも縮こまって寝ていたのですが、その日生まれて初めて“大の字”になって眠ったんです。それを見たときは泣きましたね」

 医師からは「1年間必ず続けなさい」と言われ、実際に続けてみると娘の病状は嘘のように改善していったという。しかし、山口さんはひとつ気になったことがあった。その薬は、強い紫色をしており、皮膚が生まれ変わるまでは塗った個所がずっとその色のままだったそうだ。一度塗ったら、1、2週間は紫色の肌のまま過ごさなければならなかった。

 子どもならまだしも、社会生活のある大人にはかなりハードルが高い。山口さんは、今後研究者として歩んでいくには、この驚きを必ず多くの人に享受しなければならない、そのためには「QOL」を下げない、透明な薬を開発しなければならないと思ったという。