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マグロに「小トロ」がないのはなぜ? 「大トロ」と「中トロ」栄養面での違いは? 栄養士が解説
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教えてくれた人:和漢 歩実

刺身や寿司ネタなどで、子どもから高齢者まで幅広い年代から親しまれているマグロ。部位によって「大トロ」や「中トロ」がありますが、なぜ「小トロ」はないのでしょうか。10月10日はマグロの日。記念日にちなみ、栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに、マグロについて伺いました。
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傷みやすいマグロは「下魚」といわれていた?
「小トロ」がない理由には諸説ありますが、マグロといえば赤身が主役だったことが大きいと考えられます。マグロと日本人の関わりは古く、縄文時代の遺跡から骨が見つかっているほどです。しかし、傷みやすさから「下魚」と呼ばれ、長い間、人気の高い魚ではありませんでした。
冷蔵や冷凍の技術がなかった時代、マグロは腐りやすい魚とされ、なかでも脂の多いトロの部分は酸化しやすくすぐに悪くなってしまいました。トロの部分は焼いて食べる以外は捨てられていたともいわれ、比較的日持ちする赤身の部分だけが食べられていたのです。江戸時代になると、赤身をしょうゆに漬け込み保存性が高まった「ヅケ」が考案され、人気を呼びました。
昭和に入って冷蔵庫や冷凍技術が普及し、脂の部分も新鮮なまま運べるようになると、これまで敬遠されていたトロの旨味が注目されます。脂がしっかりのった部分を「大トロ」、ほどよい脂の部分を「中トロ」と呼び分けるようになり、人気のある高級な部位として定着しました。
このような背景から、もともと食べられていた脂の少ない赤身を「小トロ」とはいわずにそのまま赤身と呼び、後から人気が出たトロの部分を、脂の量によって「大トロ」、「中トロ」と呼び分けるようになったと考えられます。
赤身やトロはマグロの胴体に
マグロは、大きく分けると頭(カマ)、胴体、尾の3つの部位があり、大トロ、中トロ、赤身は胴体にあります。大トロとは、お腹部分の上部(腹上)から取れるごくわずかな高級部位です。口の中に入れた瞬間にとろけてなくなってしまうほどの脂の甘みと旨味が味わえます。
中トロは、お腹部分の中央(腹中)から下部(腹下)の広い範囲から取ることができ、脂の多さや色などばらつきがあるのが特徴です。赤身は、マグロの胴体の中央から背中側にあります。脂身が少なくあっさりとした味わいです。
栄養面でみれば、一般的に赤身はたんぱく質が多く脂質が少ないためカロリーが低く、カリウム、マグネシウム、リンなどのミネラルを多く含みます。一方、大トロは脂質が多い分、カロリーは高めですが、生活習慣病の予防で知られる魚の油「EPA」や「DHA」といった不飽和脂肪酸が豊富です。
ちなみにマグロとひとくちにいっても、さまざまな種類があります。食用でなじみがあるマグロは、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガ(ビンチョウ)マグロなど主に5種類です。ちなみに、店頭で「本マグロ」と表示されるのはクロマグロだけ。マグロのなかでもとくに大きな種類で、体長3メートル近くになる高級魚です。
おいしいマグロの見分け方とは
おいしいマグロを選ぶポイントとしては、まず色に着目しましょう。鮮やかな赤色、トロならピンク色のものが目安です。身に赤や黒の斑点があるものは、血抜きが不十分で生臭さが気になる場合があります。
次に筋です。白い筋が目立つものは、筋が口に残って食感が良くない傾向があります。目立たないものがおすすめです。サクで購入する際は、平行または斜めに白い線が入っているものが良いでしょう。
パック内に赤い汁(ドリップ)が出ていないものを選びましょう。ドリップが出ているものは、時間が経過して旨味が流出している可能性があります。
大トロ、中トロ、そして赤身。それぞれ味わいや脂ののりが違い、好みが分かれるところですが、歴史や背景を知ったうえで味わうと、マグロの奥深さをより一層楽しめるでしょう。
(Hint-Pot編集部)
和漢 歩実(わかん・ゆみ)
栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾