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「秋だから安心」ではない!? 実は夏より多いアニサキス食中毒 よくある誤解や注意点を栄養士が解説

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:和漢 歩実

しめサバ(写真はイメージ)【写真:写真AC】
しめサバ(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 厚生労働省の「食中毒統計資料」によると、2022~2024(令和4~6)年の過去3年間に発生した食中毒のうち、約50%がアニサキスによるもの。とくに10月は、夏場と比べてもアニサキスによる食中毒が多く「秋だから安心」とはいえないようです。どのような点に気をつけたら良いでしょうか。アニサキス対策について、よくある誤解とともに、栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。

 ◇ ◇ ◇

魚介類に寄生 生食すると激しい腹痛など食中毒に

 秋は、魚介類もおいしくなる季節。家庭で生食する機会も多いでしょう。そこで気をつけたいのが、寄生虫のアニサキスによる食中毒です。食中毒というと蒸し暑い季節のイメージがありますが、アニサキスは季節に関係ありません。とくに、秋においしいサバやサンマをはじめ、アジ、イワシ、ヒラメ、マグロ、イカなどの魚介類に、アニサキスの幼虫が寄生していることがあります。

 これらの魚介類を寿司や刺身の形で生食して、アニサキス幼虫が生きたまま体内に入ってしまうと、食中毒を引き起こします。食後数時間から十数時間で胃壁に刺入し、みぞおち付近の激しい腹痛や吐き気、嘔吐を催し、さらには腸壁に刺入して激しい下腹部痛、腹膜炎症状を起こすことも。アニサキス幼虫が胃壁などに刺入しない場合も、アニサキスが抗原となり、じんましんやアナフィラキシーなどのアレルギー症状を示すケースも報告されています。

 現在のところ有効な治療薬はなく、異変を感じたら、早めに医療機関を受診することが推奨されています。

アニサキスでよくある誤解 本当の対策方法とは

 アニサキス対策として、「よく噛んで食べる」「ワサビをつける」「酢でしめる」「塩漬けにする」といわれることがありますが、どれも誤解で、有効ではありません。アニサキス幼虫は、丈夫な細い糸のような形状のため、人の歯でちぎれることはなく、ワサビや酢、塩を使っても生きています。

 家庭でできるアニサキス食中毒の対策方法は、厚生労働省や農林水産省などが注意喚起している通り、冷凍または加熱が有効とされています。

 魚介類を十分に冷凍すると、アニサキス幼虫も死滅することが確認されています。「マイナス20度で24時間以上」が目安ですが、これは冷凍庫に入れてからの時間ではなく、魚の中心部がマイナス20度になってからの時間です。

 したがって、冷凍した翌日は、まだ死滅していない可能性があります。とくに家庭用の冷凍庫は、開け閉めで庫内温度が上がってしまうこともあります。また、機種によってはマイナス20度に達しない冷凍庫もあり、死滅しないこともあるので、注意してください。

 鮮度が落ちた魚介類は、生で食べるのではなく、十分に加熱して食べることをおすすめします。加熱調理でアニサキス幼虫は死滅するといわれています。中心温度60度で1分以上、加熱しましょう。

 行楽で釣った魚、または店で丸ごと一尾購入した鮮魚は、よく冷やして持ち帰りましょう。アニサキス幼虫は、主に内臓に寄生していますが、鮮度の低下や時間経過とともに筋肉に移動する場合があります。このため、持ち帰る際は、氷や保冷剤で冷えた状態を維持し、鮮度を保つことが大切です。

 家に持ち帰ったら、すぐに魚の内臓を取り除きます。内臓を生で食べることは避けてください。使った包丁やまな板は、すぐに洗剤で洗って、調理済みの食品に触れないようにしましょう。正しい対策で、旬の魚を安全に楽しみたいものです。

(Hint-Pot編集部)

和漢 歩実(わかん・ゆみ)

栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾