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50代の妻に「免許を取れ」と要求してくる還暦を過ぎた夫 どう説得すべき? 夫婦カウンセラーがアドバイス
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教えてくれた人:夫婦カウンセラー・原嶋 めぐみ

帰省をする際、どのような移動手段を選んでいますか。長距離移動となれば、費用や体力、安全面など、若い頃とは同じようにいかない場合があります。今回お話を伺ったのは、まさにこの「帰省時の移動手段」がきっかけで、夫と険悪になってしまったという女性。夫婦カウンセラーのアドバイスとともにお届けします。
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50代なのに今から「免許を取れ!」という夫に辟易
関東在住の平尾麻衣香さん(仮名・50代後半)は、30年ほど前に東海出身の夫と結婚。自身の実家近くに家を建てて住んでいることから、毎年お正月は家族そろって夫の実家へ帰省しています。
これまでは家族4人分の新幹線代を考えると負担が大きく、夫が運転する車で、7時間ほどかけて移動するのが「いつものこと」でした。荷物をぎゅうぎゅうに積み込み、渋滞に巻き込まれながらの帰省でしたが、それが長年の習慣になっていたといいます。
ところが一昨年、夫が還暦を迎えた頃から、状況が変わりました。
「運転がしんどくなったのか、『もう長距離は疲れる』と言うようになったんです。そこで新幹線で行くことを提案したのですが、それなら私が免許を取るべきだと言い出したんです。そして、夫は『交代して運転すれば良いだろう』と提案してきました」
夫はもともと人混みが苦手で、通勤にも長年、車を使ってきました。混雑する駅や車内で過ごすこと、大きな荷物を持って移動すること自体が、かなりのストレスになるようです。
また、夫の実家は公共交通機関が不便な場所にあり、新幹線で向かう場合は、現地でレンタカーを借りる必要があります。そのため、交通費が二重にかかってしまう点も、夫が車での帰省にこだわる理由の一つでした。
とはいえ、麻衣香さん自身も還暦が近く、「今さら免許を取るのは現実的ではない」と感じています。教習所に通えば数十万円の費用がかかりますが、「そのお金があれば、何年分かの新幹線代に充てられるのではないか」とも思うそうです。
近年は、高齢ドライバーの免許返納が社会的な課題として取り上げられることも増えています。「しんどい」と感じ始めている人に、無理に長距離運転を続けさせることが、本当に安全なのか。麻衣香さんのなかには、そうした不安もあります。
それでも夫は意地になっているのか、朝夕顔を合わせるたびに「早く免許を取れ」と言い続けてくるそうです。車で帰省したいという夫の気持ちは理解できるものの、その負担を誰が、どのように引き受けるのが現実的なのか。麻衣香さんは、夫をどう説得すれば良いのか悩んでいます。
「一緒に考えたい」という姿勢を示すことが大切
麻衣香さんの夫の要望は、現実的とは言い難い面もありますが、本人なりの理由があるようにも見えます。こうした状況で、夫婦はどのように話し合えば良いのでしょうか。夫婦カウンセラーの原嶋さんに話を聞きました。
「今回のケースでは、『車で帰省したい』という夫の希望そのものが問題なのではなく、その前提条件が整理されないまま話が進んでいる点が、すれ違いを生んでいるように感じます」
原嶋さんによると、夫にとって車移動は、人混みを避けられ、荷物の持ち運びも少なくて済む、長年慣れ親しんだ合理的な移動手段です。さらに、実家が公共交通機関で行きづらい場所にある以上、新幹線に加えてレンタカー代がかかることへの抵抗感も、自然なものだといいます。
「一方で、運転そのものが以前より負担になってきているのであれば、『車で行く』という選択と、『誰が運転するのか』という問題は、切り分けて考える必要があります。ここが混同されていると、『免許を取ってほしい』という要求になりやすいのです」
そのうえで原嶋さんは、感情論ではなく、事実をもとに話し合うことが大切だと指摘します。
「運転にかかる体力や集中力、安全面、免許取得に必要な費用、新幹線やレンタカーを使った場合の総額などを、一度整理して共有してみてください。数字や具体的な条件を並べることで、『誰が我慢するか』ではなく、『どの選択が現実的か』という話に戻しやすくなります」
また、「相手を説得しよう」と構えるよりも、「一緒に考えたい」という姿勢を示すことが重要だといいます。
「長年続けてきたやり方を変えることには、誰でも抵抗があります。だからこそ、『これまでやってきたことを否定しない』ことが、話し合いの出発点になります。そのうえで、今後も無理なく続けられる方法を探る、というスタンスが望ましいでしょう」
(和栗 恵)