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すき焼きよりつらかったのは、夫の言葉 実家トラブルが、いつの間にか夫婦の溝に変わっていた理由
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教えてくれた人:夫婦カウンセラー・原嶋 めぐみ

帰省の際、実家で父母と同居している兄弟姉妹やその伴侶に対して気を遣うのは、当たり前のこと。しかし、「実家に帰ったときくらい、のびのびと過ごしたい!」と考える人も少なくないでしょう。今回お話を伺ったのは、同居中の義姉の態度にモヤモヤしているという30代女性。夫婦カウンセラーのアドバイスとともにお届けします。
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留守の間にすき焼き!? それって嫌われている証拠?
関東在住の橋本留依さん(仮名・30代)は毎年、年末年始になると、夫と息子の3人で実家に帰省しています。実家は5年ほど前に建て替えられ、現在は両親と兄家族5人が同居しているそうです。
「嫌われているというほど、はっきりした出来事があるわけじゃないんです。ただ、なんとなく私だけ浮いているような気がして……」
そう感じるようになったのは、実家を建て替える計画が持ち上がった頃からでした。留依さんは、結婚前に使っていた家具や衣類を実家に置いたままにしていましたが、工事が始まる前に引き取るか処分してほしいと兄から言われたそうです。
「当時は1LDKで、正直どこにも置き場所がなくて。結局、両親が仮住まいで預かってくれたんですが、完成が近づいた頃に『いつまで置いておくの?』と、また兄から連絡が来ました。今思えば、かなり迷惑をかけていたと思います」
片づけにも行けなかったため、最終的には兄嫁が処分を手伝ってくれたといいます。そのときは深く考えていませんでしたが、それ以来、実家の空気が少し変わったと感じるようになりました。
以前は帰省すれば自然と台所に立っていましたが、建て替え後は兄嫁が中心になり、「手伝おうか?」と声をかけても「大丈夫です」と笑顔で返されるだけ。悪意があるわけではないのに、なぜか距離を感じてしまう。そんな場面が増えていきました。
決定打になったのは、数年前の年末。中学時代の友人と会う約束があり、夫と息子を置いて外出しました。
「深夜に帰ってきて、台所を見たら、すき焼きをしたあとみたいで。滞在はまだ数日あって、別日にもできたはずなのに『私がいない間に、おいしいものを食べるんだ』って思ってしまって……胸がぎゅっとなりました」
兄嫁に嫌われているのではないかと疑念を持った留依さんは翌日、夫にぽつりと「最近、実家にいると落ち着かない」と漏らしました。すると、返ってきたのは「留依はいつまでも末っ子気分でいすぎだよ」という言葉でした。
「夫は、兄嫁さんがいつも私のことを気遣ってくれているって言うんです。台所の件にしろ、すき焼きの件にしろ。それでも気に入らないなら、友達との約束だけ済ませにこちらへ来て、実家に泊まらなければいいって……。でも、地元の友達が集まるのは年に一度、年末年始だけ。だから、帰省中に外出せざるを得ないんです」
兄嫁を責めたいわけではないのですが、夫があちらの肩を持ったことで、ますます気分が沈んでしまったという留依さん。夫が妻の味方をしてくれないという違和感を抱えたまま、次の帰省を思うと、少し気が重くなるといいます。
夫婦間の「協力義務」はお互いに守るべきルール
「留依さんの『友人と会えなくて寂しい。だから、実家に帰ったときくらい遊びたい』という気持ちはわかりますが、そうした行為はすべて、実母と義姉の善意の上に成り立っていることを忘れないようにしましょう」
そう話すのは、夫婦カウンセラーの原嶋さん。そのうえで、今回の留依さんの悩みは、兄嫁や実家との関係というより、夫婦間で“立つ位置”がずれてしまったことにあると指摘します。
夫の「留依はいつまでも末っ子気分でいすぎだよ」という言葉は、行動の指摘であると同時に、留依さんの立場を評価する言葉でした。その瞬間、留依さんは「味方」ではなく「正される側」に置かれてしまったのです。
大切なのは、まずこのずれを言葉にすること。
「あなたは、私を正したかったの? それとも、どうしたらいいか一緒に考えたかったの?」
この問いは、夫を“裁く立場”から“向き合う立場”へ戻すきっかけになります。実家の問題が、いつの間にか留依さんひとりの課題になっていました。しかし、本来は夫婦の問題です。
「『私は、あなたが味方でいてくれる場所を失うのが一番つらい』。このひと言を伝えられるかが、夫婦がもう一度、同じ側に立てるかどうかの分かれ道になると思います」
(和栗 恵)