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「しらたきを肉の隣に置くと硬くなる」は本当? すき焼きの誤解を解決 肉をおいしく保つための“本当のコツ”とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:和漢 歩実

寒い季節のごちそう、すき焼き(写真はイメージ)【写真:PIXTA】
寒い季節のごちそう、すき焼き(写真はイメージ)【写真:PIXTA】

 寒い季節のごちそうといえば、すき焼き。関東風や関西風など、地域によって作り方に違いがありますが、牛肉の薄切りを長ネギ、しらたきなどの具材とともに甘辛く煮付け、生卵をつけて食べるのが一般的です。しかし、「生卵をつけると栄養面で良くないのでは?」と疑問を持つ人がいるようです。また、「しらたきを肉の隣に入れると硬くなる?」など、いまさら聞けず誤解したままになっている人も少なくありません。すき焼きについて、栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。

 ◇ ◇ ◇

濃い味の緩和や冷ます役割があるとされる溶き卵

 すき焼きに生卵をつけて食べることは、栄養面でデメリットがあるとはいえません。相性が良くないといわれる理由は、生卵に含まれるアビジンが関係していることが考えられます。

 アビジンはたんぱく質の一種で、皮膚や爪、髪の健康に役立つビオチンと結合する性質があり、ビオチンの吸収を妨げるとされています。ただし、吸収を妨げるといっても、健康に悪影響があるわけではありません。

 牛肉や長ネギなどに含まれるビオチンは少量です。仮に生卵をつけることで吸収を妨げられても、ほかの食品から得ることができる栄養成分なので、過度に気にする必要はないでしょう。

 むしろ、溶き卵と一緒に牛肉を食べることで、たんぱく質がより充実し、筋肉や血液、肌、爪、髪などを作る力をサポートします。また、卵のたんぱく質で、牛肉に含まれる鉄の吸収を促進することも期待できるでしょう。

 そもそも、すき焼きを溶き卵につけて食べるようになった理由には、濃い味付けの緩和や熱冷ましのためなど諸説ありますが、栄養の面から見ても理に適った食べ方といえます。

 生卵が苦手な人は、大根おろしやとろろを添えるのもおすすめです。脂っこさをやわらげ、消化を助けてくれます。

しらたきの存在は肉の硬さに影響しない

「すき焼きでしらたきを肉の隣に入れると、肉が硬くなる」と聞いたことがあるかもしれません。これは、しらたきに含まれるカルシウムが調理中に溶け出して、牛肉のたんぱく質に影響して硬くなるという説が広まったことによるものです。

 しかし、この通説は誤解です。日本こんにゃく協会は、しらたきの有無による肉の硬さの比較試験を行い、しらたきの有無で肉の硬さに違いはないと結論づけました。しらたきに含まれるカルシウム量が、意外に少ないことにも言及しています。

「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」でみると、100グラムでカルシウムを比較した場合、しらたきは75ミリグラム。すき焼きの具材でなじみのある焼き豆腐は、150ミリグラムです。そもそも短時間で煮るすき焼きでは、ほかの具材が原因で牛肉が硬くなるほどの影響はないと考えられます。

 ただし、しらたきのカルシウムが、牛肉を黒っぽく変色させてしまうことはあります。変色を防ぐには、しらたきを水洗いしてから使いましょう。市販のしらたきは水に浸かった状態ですが、その水にカルシウムの凝固剤が溶け出ているためです。

 しらたきに味をしみ込ませたいなら、調理前に水分を飛ばすことがポイントです。ポリ袋に入れて、塩または砂糖を入れて揉み込むと、水分が抜けます。または、耐熱皿にしらたきを入れ、ラップをせずに電子レンジで適宜加熱してから使っても良いでしょう。

 これから年末年始に向けて、食卓に登場する機会が増えるすき焼き。ごちそうを楽しく、おいしく味わいたいですね。

(Hint-Pot編集部)

和漢 歩実(わかん・ゆみ)

栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾