仕事・人生
「就職活動は全落ちでした」 ジョージア大使が明かす意外な苦労時代 “なじめない自分”への葛藤と日本への「深い敬愛」
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“全落ち”の挫折から始まった、日本社会の構造分析

しかし、その「集団の論理」は、いざ社会に出る段階で大きな壁となります。現在の姿からは想像もつかないほど、かつてのティムラズさんは“組織になじめない自分”に深く悩んでいました。
「大学生になり、周りが一生懸命に就活をしているから自分もやるしかないと思って挑みましたが、結果はことごとく“全落ち”でした。最後に大学の掲示板で見つけた募集でようやく入社できましたが、入ってからも苦労の連続。同期がスムーズにこなす仕事が、私には本当にわからなくて、足を引っ張っているのではと悩み抜いた記憶があります」
なぜ自分だけできないのか? どうして日本の組織はこう動くのか? この葛藤こそが、ティムラズさんにとって大きな転換点となりました。日本人が無意識に行っていることを、あえて理屈で追求し、一から理解しようと努めた経験が、日本の社会構造を深く知るための糧となったのです。
34年の歳月を経て、保育園のメモに見つけた「日本の誠実さ」

来日から34年。学生時代や社会人初期に抱いた「違和感」は、長い時間をかけて「深い敬愛」へと変わっていきました。そのなかで、ティムラズさんが改めて日本の魅力を再確認したのが、お子さんが通っていた保育園での出来事。当時、その様子をXに投稿し、大きな話題になりました。
ある日、園の先生から妻に手渡された、持ち物のお願いが書かれた小さなメモ。そこには、言葉が完璧でなくてもひとめでわかるよう、丁寧なイラストが添えられていました。
「それを見た妻が、ハッと感動したんですね。私もこれこそが日本ならではの心意気だと感じました。当時は、そんな感動を投稿したいと思ったんです」
自らを“異分子”と感じて悩み、仕組みを追求したからこそ、今のティムラズさんには日本という国の“底力”がはっきりと見えています。
「私がいつか別の方にバトンタッチをしたとき、この今の土壌を次の世代がうまく活用してくれるんじゃないかなと。そこに期待したいと思っております」
1人の歯科医師が始めた小さな交流が、数十年を経て大きな絆へと成長したように、私たちがなにげなく行う誠実な行動は、いつか世界を支える大きな種になるのかもしれません。
小さな手紙から始まった絆を、さらに豊かなものにして次へつなぐ。一歩一歩、自分の足で日本への理解を深めてきたティムラズさんの言葉には、この国で悩み抜いた者だけが持つ、温かな説得力が宿っていました。
1988年、ジョージアの首都・トビリシ生まれ。1992年に来日し、日本の公立小・中学校で学ぶ。早稲田大学国際教養学部を卒業後、2012年にキッコーマン株式会社へ入社。2019年に駐日ジョージア臨時代理大使に就任し、2021年より特命全権大使を務める。日本社会への深い理解と愛情、そしてユーモアを交えたSNSでの発信が大きな反響を呼び、X(ツイッター)のフォロワー数は37.1万人を超える(2026年4月現在)。著書に「大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ」(星海社新書刊)などがある。
(Hint-Pot編集部・瀬谷 宏)