仕事・人生
38歳でがん告知「声が出なくなるかもしれない」 元警察官の経営者が直面した、思い通りにならない自分との葛藤
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元警察官で、現在は年商20億円規模の会社を率いる経営者――これまで、目の前の課題を一つひとつ自らの力で突破してきたという、株式会社トラーチ代表の稲場基泰さん。しかし、38歳の終わりに直面したのは「がん」という抗えない現実でした。手術を経て感じたのは、強い意志を持ってもコントロールできない、体と心の大きな変化。思い通りにいかない心身とどう向き合い、その経験をどのような“解釈”へと変えていったのか。お話を伺いました。
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告知直後、担当医と写真を撮った理由
「最悪、声が出なくなるかもしれない」
2025年10月、健康診断の再検査後、稲場さんに告げられたのは、ステージ2の甲状腺がんでした。これまで通り大きな異常はないだろうと考え、気にしていたのは肝臓の数値くらい。予想だにしない宣告でした。
「告知された瞬間、頭が真っ白になりました。でも、もう受け止めるしかないなって。どう解釈していくかが大事だと思ったんです」
すぐさま思考を切り替えた稲場さんは、その場で担当医に「写真を撮りましょう」と提案します。医師からは「告知されて写真を撮った患者さんは初めてです」と驚かれたそうです。
家族にも社員にも、すぐには言えなかった
こうして努めて冷静に、自身の病気を受け入れた稲場さん。告知から手術までの間、ごく限られた人にしか病状を伝えませんでした。
ともに会社を経営する双子の弟には「精密検査に行く」と話し、社員たちには伏せたまま社員旅行にも参加。また、家族では妻以外に伝えず、とくに3人の子どもたちの前では、普段通りに振る舞うことを徹底していたといいます。
「変に不安を与えるだけやと思ったんで。自分が落ち込んでいたら、周りも暗くなるじゃないですか」
周囲に公表したのは、12月の忘年会でした。母親や取引先も同席するなか、弟がその場で稲場さんの病状を明かしたのです。
「おかんは一瞬ショック受けていたみたいですけど、自分が落ち込んでない姿を見て、たぶん安心したんやと思います。『がんか、ガーンやな』って冗談っぽく言って、場をなごませてくれていました」
