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クマ出没で「『山に入るな』は逆」 都会の暮らしにマタギが一石、共存のヒントとは「山にしかない」

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・佐藤 佑輔

秋田に移住しマタギとして生活する永沢光さん【写真:本人提供】
秋田に移住しマタギとして生活する永沢光さん【写真:本人提供】

 全国各地でクマ出没のニュースが連日報じられ、「クマのいる山には近づくな」という声がかつてないほど強まっています。そんな過熱する世論に、クマと隣り合わせの日常を送る人たちはどのような思いを抱いているのでしょうか。秋田・北秋田市の現役のマタギ、永沢光さんは、「みんなクマのことをよく知っているな」と皮肉を込めて語ります。研究者ですら、まだまだ謎が多いと口にするクマの生態。永沢さんは、山の中にこそ、人間とクマが共存するためのヒントが隠されていると語ります。山に生きるマタギの言葉を聞きました。(取材・文=佐藤佑輔)

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マタギは「職業ではなく生き方」 大学卒業と同時に秋田に移住

 広島出身で、大学卒業と同時に秋田に移住した永沢さん。山とともに暮らすマタギの生き方に憧れ、2019年からマタギ文化の色濃く残る北秋田市・阿仁地区で暮らしています。

「もともとは植物に興味があって、東京農業大在学中にたまたま旅行で訪れた阿仁でクロモジ茶づくりの師匠と出会い、山で暮らすライフスタイルに引かれました。マタギは職業ではなく生き方。クロモジ茶づくり、公民館の館長、小学校での活動支援など、 本業は別にいろいろありますが、『昔の阿仁では男はみんなマタギをしたものだ』という師匠の弁もあり、流れにまかせて狩猟免許を取得しました 」

 移住した年の暮れ、マタギのシカリ(頭領)に誘われクマの冬眠穴を訪れた際、同行していた狩猟免許を持つ秋田出身の女性と出会い、のちに結婚。マタギという生き方がつないだ縁で、山とともに生きる人生を選択しました。

 永沢さんが「職業ではなく生き方」と語るように、マタギは単なるハンターとは一線を画します。山の神を信仰し、猟で取った獲物は「マタギ勘定」で全員平等に分配。自分が仕留めた獲物でも、あくまで山からの授かりものと捉えます。山の中でのクマとの命のやり取りは「ショウブ(勝負)」、一方で、わなにかかったクマを行政からの依頼で駆除する有害駆除は「本来のマタギの姿ではない」と永沢さん。駆除の後には山の神に魂を返す供養の儀式を欠かしません。

「クマを撃つんですけど、クマの心配もするんですよ」

「ミナグロ」と呼ばれる白い月の輪模様のないクマや、子連れのクマは撃たないという不文律もあり、矛盾をはらみながらも共存を模索してきた狩猟文化がうかがえます。

 そんなマタギの目に、近年のクマの大量出没はどのように映っているのでしょうか。

「行動は明らかに変化しています。民家に近づかなかったクマが当たり前のように出没し、昔は興味を示さなかったそばや栗を好んで食べている。ここ何年か、場合によっては1年単位でおいしいものだと学習している。戦後の拡大造林政策が裏目に出て放置林が増えてしまったこと、高齢化と人口減少で狩猟圧が弱まったこと、原因はいろいろあるんでしょうが、今まで見てこなかっただけで、ずっとそこにあった問題。それがここにきて顕在化してきているのではないでしょうか」

「人があまりにも山との生活から離れてしまった」 現代人のライフスタイルに一石

 行動様式には明確な変化があるとした一方、ヒグマとツキノワグマを混同した報道や、「凶暴化」と断定的に語る論調に対しては懐疑的な思いもあると永沢さん。

「マタギも研究者も、クマの生態についてはよく分かっていないことが多いのに、みんなよくもまあクマのことを知っているなと思いますね。それは観察を経て科学的に解明されたことなのか、ただの予想でしかないのか。分からないことは分からないでいいのに、コンテンツが一人歩きしている」

 過熱する報道の影響か、「危険なクマは絶滅させろ」「クマの出るところに住むな」など、ネット上では極端な意見も広がっています。登山や山菜採りで山を訪れ、被害に遭った人に対するバッシングの声も少なくありません。山で生きる当事者として、どのような思いを抱いているのでしょうか。

「なぜ頭数が増えているのか、どういう理由で街に出てくるのか、はっきり言ってよく分かりません。だからこそ、僕らにできるのは理由を決めつけて駆除することでも、クマの生息地から離れることでもなく、観察をしてデータを集めることしかない。共存のヒントは山にしかない、クマから勉強させてもらうしかないんです。

 一つだけ言えるのは、人があまりにも山との生活から離れすぎてしまったということ。昔は一家総出で田植えや稲刈りをしていた光景が、今はおじいさん一人と機械が動く姿に変わった。山とかかわらず、都会でその恵みを享受しながら生きていける。そういう生活をしているうちに、気付けば都会のすぐ近くまでクマが来てしまった。まだ狩猟圧の残っている阿仁のクマは、人を見れば逃げていきますよ。クマの出るところに住むな、山には入るなというのは逆で、山の中で暮らしていくとはどういうことなのか、もう一度考え直した方がいい」

 人とクマが共存するためにこそ、山から離れるのでなく、山とともに生きるという選択。1000年以上続くマタギの文化は、私たち現代人の生き方に静かに疑問を投げかけています。

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・佐藤 佑輔)