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「都会で馬を飼うなんてかわいそう」 批判も乗り越え…東京に日本初の“馬と過ごせるホテル”が誕生するまで
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立ちはだかった「4つの大きな壁」

ホテルを始めるにも、動物が伴うと行政の許可要件は跳ね上がります。夫婦の前に「4つの大きな壁」が立ちはだかりました。
「飲食店営業許可」「第一種動物取扱業」「旅館業の許可」、そして化製場法や自治体の条例に基づいた「動物の飼養または収容の許可」です。
とくに困難を極めたのが、旅館業と動物飼養の許可でした。
「旅館業の許可には、半径10メートル程度の位置にある住宅への説明が必要で戸別訪問により資料を配布し、名簿の作成を行いました。半径500メートル以内に公共の教育・保育・児童福祉施設がある場合は、東京都の意見照会が必要です。実際に幼稚園があり、それに約2か月を要しました。また、墨田区からは『人と動物の居住エリアを明確に分けるため、完全な個室状態にしなければならない』という指導を受け、カフェ用で腰の高さまで作っていた囲いを一度壊し、天井まで壁を塞ぐ工事をやり直すことになりました」(淳子さん)
開業前に寄せられた思わぬ批判
さらに、墨田区では「馬の飼養許可」の申請は前例がなく、担当者も手探り状態。夫婦は排水などの衛生設備も整え、約半年間かけて全ての許可をクリアしたのです。
苦労は設備や事務手続きだけではありませんでした。開業に向けてSNSで発信を始めると、思わぬ方向から横槍が入ります。「都会のど真ん中で馬を飼うなんてかわいそうだ」「やめさせろ」。動物愛護の観点からクレームが寄せられたのです。前例のない取り組みゆえの「壁」でした。
しかし、剛さんたちは逃げませんでした。クレームの窓口となっていた動物愛護相談センターの担当者と直接向き合ったのです。
「私たちは長年、牧場で馬の生産や育成に携わってきたプロです。その知見を生かし、いかに馬の健康と衛生面を徹底し、ストレスのない環境を作っているかを丁寧に説明しました。担当者の方はここまで足を運んでくださり、さまざまな面を見ていただいた上で『そういうことなら』と理解していただきました」(剛さん)
3頭と目指す「人と馬が共生する社会」

8月1日にプレオープンとなった同施設で出迎えてくれたのは、個性豊かな3頭の男の子たちです。落ち着きのある黒毛のクロマル、お利口な白黒ブチのオレオ、なでられるのが大好きな月毛(白っぽい毛色)のミルク。彼らは毎日、交代でエレベーターに乗り、早朝のスカイツリー周辺を散歩しています。
宿泊客は、この早朝の散歩を馬たちと一緒に体験することができます。なぜ、剛さんたちはここまでして「都会で馬と過ごす」ことにこだわったのでしょうか。
「例えばロンドンでは、騎馬警官がいたり、日常の風景の中に馬がいて、人間と馬が当たり前のように共生しています。馬を愛する立場として、『日本もそんな社会になってほしい』という思いがあります。ここがそのきっかけになれればと願っています」
動物への深い愛情と実現に向けた執念が生み出した日本初のコンセプトホテル。都会の喧騒の中で、優しい馬たちと過ごす一夜、朝の散歩を人々がどう受け止めるのか。西川さん夫婦はその反応も受け止めながらの前進を考えています。
(柳田 通斉)


