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「自分の成果を素直に喜べなくなった」 高IQの女性が抱え続けた葛藤 他者を評価する“基準”になった学生時代

公開日:  /  更新日:

著者:古川 諭香

周囲との違いや他者との関係に悩んできた女性(写真はイメージ)【写真:PIXTA】
周囲との違いや他者との関係に悩んできた女性(写真はイメージ)【写真:PIXTA】

 高い知能を示す検査結果は通常、肯定的に受け止められることもあります。一方で、周囲との違いに戸惑い、生きづらさを感じる人もいるようです。サキさん(仮名)は精神的不調の治療中に知能検査を受け、言語に関わる指標で高い数値を告げられたといいます。幼い頃から感じてきた周囲とのずれや、検査を受けるまでの経験について話を聞きました。

 ◇ ◇ ◇

祖母への手紙で気づいた他者とのずれ

 サキさんは、幼少期から「自分は周囲とは違う」と感じていました。それは「自分は優れている」という優越感ではありません。

「私は人間ではなく、人間の振る舞いを学びながら、その中にまぎれようとしている別の何かなのではないか……という感覚でした」

 周囲との違いをはっきり感じたのは、保育園に入る前の頃です。まだ文字を書けなかったサキさんは、線を並べた手紙を祖母に渡しました。手紙を受け取った祖母は優しく笑いましたが、サキさんはその笑顔に込められた感情に衝撃を受けたそうです。

「当時の私は、言語が人間にとって意思疎通の中心だという感覚が薄かったんです。私は大人の表情や声の調子から、喜んでいるのか、困っているのか、何をしてほしいのかを察することができたので、自分が気持ちを強く込めれば、言葉を使わなくても相手に気持ちが届くと思っていました」

 ところが、手紙を受け取った祖母がサキさんに向けたのは、幼い子どもの行動を微笑ましく思う笑顔でした。自分が手紙に込めた気持ちを理解した表情ではなかったことに、サキさんは驚いたのです。

「私は相手の気持ちをわかろうとしているのに、私の内側は相手に伝わっていない、わかろうとされていないという不均衡な状態への不安感を抱きました」

 相手の反応を読み取り、周囲に適応できる一方で、「理解された」と感じることはなく、常に緊張している自分がいる――。そうした苦しみは、その後も消えませんでした。

自分の成果は「誰かを評価する基準」になった

 負けず嫌いだったサキさんは学生時代、目の前のことに熱心に取り組み、学習などで良い成績を収めることが増えました。

 しかし、それに伴い、自分の成果が同級生など周囲の誰かを評価する基準として扱われていると感じるようになりました。

 また、サキさんは自分の成績が評価される一方で、別の人が「なぜ同じようにできないの」と叱られる現実があることを知り、自身の成果を素直に喜べなくなりました。

「私が何かをすると誰かが喜ぶだけではなく、別の誰かの評価や感情まで動いてしまうように感じました。私はその責任まで過剰に引き受けてしまい、悩みました」

 当時、サキさんは友人関係で大きくつまずくことはありませんでした。ただ、自分の考えをそのまま言葉にすると、「突飛だ」と受け取られることはあったそうです。そこで、相手に理解してもらうため、その考えに至った過程をほどき、相手が受け取りやすいように変換する作業を頭の中で行うようになりました。

「この努力は、複雑なことを伝える際に役立っています。ただ、相手の反応を予測し、誤解されないように自分の存在を調整し続けなければならないという負担も感じています」

 緊張感を長い期間持ち続けてきたからか、サキさんは周囲と時間の感覚が合わないと感じることもあるそうです。周囲の人が時間とともに変化していくことは理解できますが、自分も同じ時間の流れの中にいる感覚が薄いのだとか。

「自分は生きていないのではないか。あるいは、ほかの人とは異なる時空に存在しているのではないかと感じることがあります。死に対する恐怖も、とても薄い。死を身近に感じているからではなく、生と死を隔てているはずの時間の流れを、自分のものとして感じられていないからです」

 20代になったとき、サキさんは「以前の自分と何かが変わった」と感じ、精神科を受診しました。精神科で知能検査を受けたサキさんは、そこで初めて自身のIQの高さを知ることになります。しかし、その先で直面したのは、知能検査で高い数値が出ることによって、自身のSOSが届きにくくなってしまうという問題でした。

 後編では、サキさんが医療機関を受診するなかで感じたことや、日常生活で抱えている困り事についてお伝えします。

※本文中の検査結果や診療経過などは、本人の説明と記憶に基づいています。プライバシー保護のため、個人や医療機関などが特定されないよう配慮しています。

(古川 諭香)