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認知症の父と面会できない日々 転倒が増えた父に少しでもおしゃれな「保護帽子」を アラフィフ娘のささやかな思い
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痴呆症の中でもアルツハイマー型認知症は、症状がゆっくりと進行すると言われています。しかしそれは、80代、90代と高齢な場合。60代、70代と比較的若い時期に発症した場合、進行の速度は思った以上に早く「あっという間に何もできなくなってしまった」と感じる家族も多いそうです。さらに“コロナ禍”によって、感染予防のため家族が見舞いに行くことができなかったり、在宅での介護サービスが受けられなかったりと、周囲とのコミュケーション不足などさまざまな理由で認知症の症状が悪化している例があるようです。介護への悩みは、なかなか尽きません。
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日に日に悪化していく父の症状
私の父はかかりつけの脳神経外科でアルツハイマー型認知症と診断され、その後もカッとなって母に暴力を振るったり、1人でふらりと散歩に出かけては家への帰り道を忘れたりして、警察のお世話になることを数回繰り返していました。そのため昨年11月末に、高齢者のケアを行ってくれる病院に入院。この時は家族や親しかった人の顔はきちんと覚えていましたし、自分での入浴や食事、排泄は不自由なくできていました。
入院してからもしばらくは安定していて、何度も何度も同じ話を繰り返したりもしていましたが、薬の効果もあってか感情的になることはありませんでした。私の目からは、父の症状の進行は穏やかな状態を保っているように見えていました。
しかし、折からのコロナ禍により、家族がまったくお見舞いに行くことができなくなったことで、どうやら一気に症状が進んだようなのです。
父が転倒 大事には至らなかったものの新たな出費も
8月の初旬。担当の看護師さんから電話があり、父が病院内で転倒したことを知らされました。すぐにレントゲンなどで全身を検査していただき、骨折や脳挫傷などといった、外傷がないことが分かりました。
転倒する少し前から失禁など排泄に関する問題が続き、下着ではなくおむつを利用するようになっていたので、ある程度の覚悟はしていたのですが「いよいよ歩くこともできなくなってきたのか……」と、何ともやるせない気持ちでいっぱいになりました。
この時、看護師さんから、転倒を防ぐための「腰用サポーター」と、転倒した際に頭を守る「帽子」を手配するよう言われました。
腰用サポーターについては、どのようなものを選ぶべきかまるで分からなかったので、病院で売られているもので父の身体に合うサイズのものを購入し、使用してもらいました。面会できていないのでサポーターの実物を見ることもできていないのですが、腰に巻くことで衰えてきた筋肉をサポートし、歩行をスムーズにしてくれるタイプのようです。
さらに帽子も病院にお願いしようと思ったのですが、看護師さんがそこで一言。
「病院で販売されている帽子は、実は2万円以上する高いものだけなんです。可能であれば、ご自身で探してこられた方が安く済むと思いますよ」
2万円以上……。その値段に、母も私も思わず躊躇してしまいました。父親の入院費は年金ですべてまかなえていますが、残る母の生活費は兄が仕送りをし、電話代など細々したものを私がサポートしている状態。
そんな我が家において、2万円以上する帽子はかなりの贅沢品です。看護師さんも、我が家と似たような家庭をたくさん見てこられた上でのアドバイスだったのでしょう。そこで、帽子だけは自分たちで購入することにしました。
「こんな時は通販サイトで探すに限る!」と思い、「帽子 転倒 保護」の3つのキーワードを入れて検索をかけてみたところ、思った以上にさまざまなタイプの帽子が売られていることが分かりました。
多彩な帽子が売られていることにびっくり!
数時間かけて調べてみたところ、介護用の帽子には頭全体を守る「ヘッドガード(ヘッドギア)」と「ヘルメット」、ファッション性を高めた「保護帽子」という、大きくまとめて3つの種類があることが分かりました。
安全面を考えればヘッドガードかヘルメットですが、やはり見た目が無骨で「仕方がないとはいえ、着道楽だった父にこんな格好をさせたくない……」という気持ちが湧き出すのを止めることができませんでした。そこで、全体的な保護は厳しいにしても、ある程度おしゃれで、父が自分自身を鏡で見た時にも違和感を覚えることはないであろう、保護帽子を選ぶことに。
なお、保護帽子のネット上での価格は概ね7000~1万円。介護保険の適用はなく全額自己負担になりますが、この程度であれば無理なく購入できるので「父に似合いそうだな」と思えるものを購入しました。
具体的にはキャスケット型の、ネイビーと白の細ストライプのデザインのもので、クリップ式のアゴ紐が付いているもの。後頭部の部分は、緩衝材が出し入れ可能になっています。
もしかしたら病院側は「もっとちゃんとカバーできるものにしてくれればいいのに」と思っているかもしれません。ですが、ヘッドギアやヘルメットで頭を締め付けられ、重たくつらい思いをする父を想像するだけで、私自身もまた締め付けられる気がしてたまらなかったので、このチョイスに後悔はありません。
こうして、介護する側の気持ちの折り合いも付けることこそが、ストレスのない介護を行う上で大切なのですから……!
(和栗 恵)