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松雪泰子が“すっぴん”で演じる40代後半・独身 イタさをさらけ出した先に見えるものとは? 映画『甘いお酒でうがい』
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お笑いコンビ「シソンヌ」のじろうさんによる同名小説を原作とした映画『甘いお酒でうがい』。40歳後半・独身・趣味はお酒という主人公の川嶋佳子を演じたのは、人気女優の松雪泰子さんです。佳子の“イタい”日記を軸に展開する517日間の物語は、鑑賞者にちょっぴり不思議な感情をもたらしてくれます。映画ジャーナリストの関口裕子さんに作品を解説していただきました。
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佳子の日記に“イタさ”を感じる理由とは?
川嶋佳子。40代後半、独身、趣味はお酒。映画『甘いお酒でうがい』のヒロインはこんな人。筆者が40代の頃、自分も、周りの友人の多くも同じ肩書きを持っていたので、なじみのあるプロフィールだ。出版社で事務の仕事をしている派遣社員の川嶋佳子は、後輩の若林ちゃん(黒木華)と給料日に飲みに行くことを楽しみとし、転職してきた二回り年下の岡本くん(清水尋也)への恋心に躊躇している。
本作は、この川嶋佳子の日記を映画化したもの。日記には川嶋佳子の“感じたこと”が綴られる。例えば「鏡に映る私と、他人の目に映る私って同じなのかな? 小さい頃からの疑問」などと。仕事と1DKの部屋を往復する川嶋佳子の日常を綴った映画には、そんな詩のような日記の一文が一人語りでかぶせられる。
この詩のような日記を、“ポエム”と表現してはいけない。そう遠慮してしまうほど、イタい部分がある。たいてい日記は他人が読むように書かれていないからなのだろうが、特にイタいのはモノローグで「~してあげる」とか「~おなりなさい」と語られる部分だ。でもイタいのは、川嶋佳子ではない。こちらが自身の思い上がりを見透かされたようでイタさを感じるのだ。
このリアルな感情を描く原作者、40代ではあるが女性ではない。お笑いコンビ「シソンヌ」のじろうだ。原作は、じろうがコントで演じる架空の女性“川嶋佳子”が日記をつけていたら、というコンセプトで書かれた同名小説(KADOKAWA刊)。コントの川嶋佳子はもっとふてぶてしい感じだが、そんな彼女がこんなセンシティブな日記を書くという設定が面白い。セリフにもあるように、他人の目に映る人物像と内面は必ずしも一致しないのだと思う。じろう然り、じろう演じる川嶋佳子然り。