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韓国で社会現象になった小説を映画化 仕事・結婚・出産…女性が直面するハードルを描く『82年生まれ、キム・ジヨン』

著者:関口 裕子

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『82年生まれ、キム・ジヨン』10月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー(c)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
『82年生まれ、キム・ジヨン』10月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー(c)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

 職場での待遇差や賃金格差、結婚・出産後の扱いなど、世の女性が直面するハードルは数多く存在しています。長く声高に論じられてはいませんでしたが、近年は世界各国の女性が声を上げ始めました。韓国のベストセラー小説を映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』もまた、結婚・出産を機に退職し、ハードルに直面した女性を描いた作品です。小説の発表時から韓国で社会現象を巻き起こした本作を、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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就職が決まらなければ「嫁に行け」 女性が直面するリアルなハードル

 韓国で130万部を突破したベストセラーの映画化作品『82年生まれ、キム・ジヨン』。監督は本作が長編デビューとなるキム・ドヨンだ。主人公の女性キム・ジヨンを『トガニ 幼き瞳の告発』(2011)のチョン・ユミ、夫のデヒョンをテレビドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」(2016~17)のコン・ユと、ともに実力派俳優が演じている。

 主人公のジヨンは、大学の文学部を出て、広告代理店に就職。会社の女性上司はジヨンの優秀さを評価していたが、彼女がプロジェクト・リーダーに抜擢されることはなかった。やがて大学の先輩であるデヒョンと結婚したジヨンは女児出産のため退職。今は専業主婦として子育てに勤しんでいるが、それまで“社会”の一員として生きてきたため、社会から切り離されたと感じ、体調を崩した。デヒョンは“産後うつ”を疑い、精神科医を訪ねる。

 キム・ジヨンとは、タイトルにある1982年の当時、韓国で一番多く付けられた女性の名前なのだそう。最大公約数的名前をタイトルにしたのは、そこに誰の名前を入れても当てはまる物語であり、あなた自身の物語であると作者チョ・ナムジュは語っている。

 確かに、女性であるが故にジヨンが経験することには、いちいち共感してしまう。ストーカーされれば「スカートが短すぎる。本人の注意が足りないからだ」と言われ、就職がなかなか決まらなければ「嫁に行け」と父親に怒られる。

 結婚すれば、毎年の年末年始は夫の実家に帰郷して家事を手伝い、同じく帰郷した夫の姉夫婦を歓待する側に回らせられる。再就職先が決まったのにシッターが見つからず、デヒョンが育児休暇を取ることを2人で決めた際も「息子の将来の邪魔する気?」と激しく姑になじられる。

 そんなジヨンが抱える行き場のない思いを解放させる存在は、彼女の実母ミスク。ミスク自身、“女だから”という理由で教師になる夢を断念させられ、兄たちの学費を稼ぐために工場で働き、結婚後は姑から散々2人目の男の子を産むよう言われるという理不尽を経験してきたからだ。

 ジヨンが父親に「おとなしく嫁に行け」と怒られた時、ミスクは「おとなしくしないで! 思う存分に歩き回りなさい」と、その場で叱咤激励する。近しい人からの肯定は、“この事態は自分に非があり招いている”という状態に陥った時、非常に大きな救いだ。ジヨンも「私は能力がないから脱落した」と考えていた。最終的にジヨンを救うのは、精神科クリニックの医師だが、映画を観ているこちらまで救われる。