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韓国で社会現象になった小説を映画化 仕事・結婚・出産…女性が直面するハードルを描く『82年生まれ、キム・ジヨン』
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国を問わず共通する問題 女性が声を上げ始めた理由とは
原作を翻訳した斎藤真理子さんいわく、本書が日本で出版された時、Amazon日本のレビュー欄に韓国からと思われる書き込みが多数あったとのこと。男性からは「被害妄想だ」「読む価値のない本」、女性からは「彼らのこの行為こそがこの物語がフィクションでないことを証明している」と、翻訳ソフトを駆使して書き込まれたという。韓国にはAmazonがないため、わざわざAmazon日本にアカウントを作ったのかもしれない。それほどまでにリアルな作品だったといえる。
この本がベストセラーになる韓国をうらやましいとするレビューもあった。日本ではこういった問題が公に語られることはない。それ以前の問題だ、とも受け取れる。日本もまた、家の中の多くの問題が、社会から切り離された女性に、未だ預けられているのだろう。
ジヨンの夫デヒョンは、優しく、フラットな考え方をする。決して彼女の思考と行動をコントロール下に置こうなどと考えてはいない。それでも何気ない一言が、ジヨンを苛立たせる。デヒョンは再就職を諦めたジヨンに対して「今回は見送ろう。少し休んだ方がいい」と告げる。すると、ジヨンはこう返す。「育児が“休み”だとでも?」
男女の、そして子育てのあり方が、社会の構造とともに変化した現在、どのような形がベターなのかまだ試行錯誤している段階。女性もつらければ、その状況に気付いた男性もつらいのだ。
ではなぜ今、女性たちはこれまで抑えてきた声を上げ始めたのか? それは人が未来へ生きるために変えざるを得ない重要な部分が含まれているからではないか。そんな、これまでのやり方では解決できない問題までもが、静かなトーンで描かれた作品だ。
『82年生まれ、キム・ジヨン』10月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー 配給:クロックワークス
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。