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蒼井優の”芝居じみた口調”が印象的 込められた重要な意味とは 映画『スパイの妻』
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「かわいい」と呼ばれた時代を経て、現在は「演技派女優」として映画やドラマ、舞台で広く活躍する蒼井優さん。2019年に発表した「南海キャンディーズ」の山里亮太さんとの結婚も、大きな話題を呼びました。そんな彼女が本作『スパイの妻』で挑んだのは、ある意味で“難役”だったといえるようです。“主演女優”として演じたものは、一体何だったのでしょう? 映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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精密な脚本のもと展開するラブサスペンスだが…
『スパイの妻』は、黒沢清監督にとって初の歴史劇となるラブサスペンス。9月にはベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞でも話題になった。国家の恐ろしい機密を目撃し、国際社会に訴え出ようとする夫・福原優作(高橋一生)を完全肯定し、“スパイの妻”と罵られようともサポートする妻・聡子(蒼井優)を、太平洋戦争前夜の神戸を舞台に描く。
貿易商を営む優作は、聡子と二人暮らしの裕福な実業家。仕事柄、海外と幅広く取引しており、視野も広く、見識があり、正義感にあふれている。だからこそ人道的に許せない国家機密に強い拒否反応を示し、“国際社会に訴え出る”という大事を1人で遂行しようとする。
そんな福原に浮気の疑いはかけるものの、それ以外のことは、それがどんなに度肝を抜かれることでも全面的に支持する聡子。こんなパートナーがいたらさぞかし心強いことだろう。しかも、聡子は一度そう決めたら揺らがない。健全な市民生活に暗雲がかかり、逮捕された甥の文雄(坂東龍汰)が凄まじい拷問によって自白を強要されるのを目の当たりにしても微動だにしない。
この状況を引いて見ると、優作のやっていることが『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントばりな無茶のように見えてくる。聡子の行動もクールな諜報組織のパートナーのような……。精密な脚本のもと展開するサスペンスなのだが、この物語を額面通りに観ていいものなのか? 何かもやっと引っかかるのを感じた。