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不妊・養子縁組・未成年の妊娠…「自分ならどうする?」を突き付けられる物語 河瀬直美監督の演出が光る『朝が来る』
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厚生労働省の緊急調査によると、全国の自治体が受理した妊娠届の件数は、前年同期比で1割超減少していたそうです。少子化の加速を懸念とメディアが報じる一方、子どもを望んで不妊治療を続ける夫婦も多く存在しています。日本を代表する女性監督、河瀬直美氏の最新作は、不妊治療の末に特別養子縁組をした夫婦が、ある日“生みの母”から驚きの内容を告げられる物語。子どもをめぐって思い悩む登場人物たちは、鑑賞者自身にも大きな問いを突き付けてくるようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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「子どもを返して」…夫婦の元にある日かかってきた電話
放送作家の鈴木おさむ氏が、同じ団塊ジュニア世代に向けた連載エッセイで「男性不妊と夫婦の形について」取り上げていた。不妊治療は珍しいことではなく、ましてや女性だけが受けるものでもなくなった。だが、希望通りの成果を挙げることは依然として難しく、治療自体の苦しさに悩む声も多い。
同氏はそのエッセイで、不妊の原因がどちらにあるのかはっきりさせることに抵抗感があり、“夫婦2人”を生きるベースにすると言った人の考え方に胸を掴まれたと書いている。よかれと思うことが正しいとは限らない。夫婦の形はそれぞれ、だと。
コロナ禍で例年通りの開催を中止した「カンヌ国際映画祭」。代わりにオフィシャルセレクション「カンヌ2020」として公式選出された作品『朝が来る』は、不妊治療の末に“特別養子縁組”の制度を利用して子どもを迎え入れた夫婦の物語だ。
特別養子縁組の制度で子どもを迎え入れて6年経つ夫婦、清和(井浦)と佐都子(永作)は、幼稚園に通う朝斗(佐藤玲旺)とともに幸せな日々を送っている。ある日、夫婦の元に産みの親・片倉ひかりを名乗る女性から「子どもを返してほしい。それがダメならお金をください」という電話がかかってくる。訪ねてきた女性は、朝斗を引き取る時に会った“ひかり”とは似ても似つかなかった。一体、彼女は誰なのか? 何が目的なのか?
監督・脚本・撮影は河瀬直美、原作小説(文春文庫)は辻村深月。夫婦を演技派の永作博美と井浦新が、14歳の母親を来年のNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の妹役で注目される蒔田彩珠が、養子縁組を支援するNPOの代表を『あん』(2015)にも出演した浅田美代子が演じる。