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認知症の元バレリーナ 「白鳥の湖」を聞いて“呼び覚まされた”全盛期の動きに感動の声
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「白鳥の湖」を聞いた車いすの高齢女性が、たちまち目に力を宿して白鳥の優雅な動きを舞い始める……さきごろ公開された動画が、世界で大きな感動を呼んでいます。女性は2019年に亡くなった元プリマ・バレリーナ。アルツハイマー型認知症を患っていましたが、彼女のダンサー人生は最後まで輝きを失わなかったようです。欧米などで各紙が報じています。
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介護士が手の甲にキス すると両腕は魔法のように…
英大衆紙「デイリー・メール」などによると、動画に登場している女性は、1960年代にニューヨーク・シティ・バレエでプリマ・バレリーナを務めたマルタ・C・ゴンザレスさん。動画を公開したのは、認知症患者の生活や気分、記憶などを音楽で改善することを目指すスペインの慈善団体「Asociacion Musica paraDesperta」です。
動画が撮影された場所は、彼女が暮らしていたスペインのケアホーム。車いすに座ったマルタさんに、介護士がヘッドホンでバレエ作品「白鳥の湖」の有名曲を聴かせます。同作といえば誰もが最初に思い浮かべるであろう、もの悲しくもドラマチックなあの名曲です。
マルタさんは最初、何かを思い出すように俯きます。そこで介護士はそっと手を取り、まるで勇気を与えるかのように左手の甲にキス。するとそのときから、マルタさんの両腕は動き始めました。そして曲が盛り上がっていくにつれ、マルタさんの両腕は繊細な動きで白鳥の羽ばたきとオデットの感情を示すとされる腕の振りを、驚くほど忠実に舞い始めたのです。
この白鳥は悪魔によって姿を変えられたオデット。そして、マルタさんの表情もその苦悩を示すダンサーのものに変わっていきます。ほんの数分の動画ですが、まさに圧巻と呼べる迫真の踊りは鑑賞者すべてを魅了し、動画にも心からの拍手がおさめられていました。
同紙によると、マルタさんは1967年にオデットを踊っていたそう。団体は今年の10月末に動画を公開しましたが、マルタさんは動画が撮影された2019年に亡くなりました。この動画は、ダンサー人生における“最後のステージ”だったといえます。
さらに、動画に感銘を受けた俳優のアントニオ・バンデラスがSNSで紹介。この動画の普及はマルタさんの芸術と情熱を広く伝えることに役立つだろうと記しました。
近年、認知症に対してさまざまな治療が試みられています。中でもかつての記憶を呼び覚ます各種のカルチャー作品や部屋のインテリアなどは、高い効果があるとの報告も。こういった試みによって、マルタさんのすばらしい“最後のステージ”も実現しました。そしてそれを今観る私たちも、偉大なるダンサーの死を盛大な拍手で見送ることができます。
(Hint-Pot編集部)