カルチャー
俳優・のんが独り言の止まらない31歳独身女性に 仕草や瞳の輝きに注目したい『私をくいとめて』
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コロナ禍の自粛ムードもあってか、「独り言が増えた」という自覚がある人も少なくはないでしょう。一般的にはあまり良いことではないように思えますが、実はそうでもないという意見が。本作でのんさんが演じる主人公は、独り言が日常になっている31歳の独身女性です。独り言で思考を整理しつつ、リアルな体験を通じて前に進む姿を、持ち前のさわやかさで表現しています。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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独り言を日常とする31歳独身女性の思考とは
新型コロナウイルスの影響もあり、1人でいる時間が増えた人も多い昨今、独り言も増えたと感じる方は少なくないのでは? 大九明子監督、のん主演の『私をくいとめて』は、まさにそんな独り言を日常とする31歳独身女性の思考を赤裸々に描いた作品だ。
脳内に優秀な相談役Aが存在する会社員みつ子(のん)。週末ごとに、講習会やイベントに参加。普段の衣食住は適度に心地よく保ち、職場ではプライベートにずかずか踏み込むことのない気の合う先輩ノゾミ(臼田あさ美)と他愛もない話をし、一人暮らしをエンジョイしている。
ある時、みつ子は気付いてしまう。気の合う人や好きな人と一緒に過ごすのは楽しいが、根本的に人を必要としておらず、独りで行動している時が一番自然体なのだということに。そのままいけば、独りで生きるしかない。それでいいと思いつつ、それでいいのかとも思う。誰か“私をくいとめて”というのがタイトルの意味だ。
“独りが一番自然体”というみつ子の生活は、本当に楽しそう。主張しすぎないおしゃれな家具が置かれた部屋は、広めの1K。ダイニングテーブルには、大学時代の親友で現在イタリア在住の皐月(橋本愛)から送られてきたリモンチェッロ。棚には、合羽橋の講習会で作ったろう細工のエビの天ぷらのサンプルが飾られている。会社の取引先の営業マンで、近所に住む感じのいい青年・多田(林遣都)が、月に1回、手作りのおかずをもらいに来るのも好ましい生活のアクセントだ。
そして、みつ子の脳内には相談役の「A」がいる。考えがまとまらないと時や誰かに肯定してほしい時、決して面倒くさがらずに的確な助言をくれる存在だ。こんな楽しげな生活であれば、ずっと独りで生きていける……のだろうか?