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吉永小百合『いのちの停車場』 76歳の今だからこそ新たに選んだテーマとは

著者:関口 裕子

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最新主演作では金沢で在宅医療に携わる医師・白石咲和子を熱演(C)2021「いのちの停車場」製作委員会
最新主演作では金沢で在宅医療に携わる医師・白石咲和子を熱演(C)2021「いのちの停車場」製作委員会

「日本を代表する女優」と聞いて、吉永小百合さんを挙げる人も多いでしょう。その美貌はもちろん圧倒的な存在感と演技力を兼ね備えた吉永さんは、年齢性別を問わず絶大な人気を誇ります。その容貌から現在も「夢のような憧れの存在」と思われがちですが、実は76歳を迎えた今も、作品で“何かを伝える”ことにこだわり続ける強い魂を秘めた女優です。元「早熟な天才少女」が今だからこそ表現できる境地とは? 映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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評論家も絶賛した「早熟な天才少女」吉永小百合

 最新作『いのちの停車場』は、吉永小百合にとって122本目の出演映画となる。1959年、生駒千里監督の松竹映画『朝を呼ぶ口笛』で映画デビューしてから62年。一番多い年には11本もの映画に出演してきた。

 吉永は1960年、15歳で日活撮影所に入社。赤木圭一郎主演のアクション映画で妹役などを演じ始める。そして同年には早くも主演。嫉妬した継父に引き裂かれる10代の純愛を描いた『ガラスの中の少女』(1960)などで幅広い層からの人気を得ていく。

 得たのは人気だけでなく、演技の評価もだった。1961年の主演作で、秋の一時期に津軽平野を訪れて1年分の馬草を刈る、今でいうバイト青年たちの恋愛を描いた『草を刈る娘』では、評論家から「16歳の女学生の片手間でできる演技ではない」と評価され、「大物になる素材」だからこそ、「役者も消耗品並みとばかりにこき使われて、若さと新鮮さだけを吸い取られてしまわないように」とその多忙さを憂慮されている。

 そんな早熟な天才少女、吉永小百合に日活が満を持して用意したのが、早船ちよ原作の『キューポラのある街』(1962)だ。鋳物で急成長する埼玉県川口市を舞台に貧困、民族、家族、友情、性などの問題に直面する定時制高校を目指す少女ジュンの物語。ジュンの言葉は若者たちの切実な気持ちを代弁し、同世代の観客を集客。吉永自身もさまざまな映画賞を受賞した。

 1964年に公開された純愛映画『愛と死をみつめて』はさらに大ヒット。その年の日本映画の興行2位となり、吉永のブロマイドは女性部門の年間売り上げ1位を記録した。

「偉人よりも市井の人を演じたい」と考える裏には伝えたい気持ちも

 早稲田大学第二文学部に入学したのは、翌1965年。何本もの主演作を撮りながら、大学検定を受け、受験勉強をしていたことに驚かされる。

 ただ、「多忙を極めていたからこそ広い視点を持つことができる環境を得たい」と願い、俳優の世界以外にもベースを作ろうとしたのは分かるような気がする。現在も吉永小百合が保ち続けている人気や現状に甘んじることなく、意味あるものを送り出したい、前へ進みたいと思う気持ちを行動に移したはじめの一歩というか。

 吉永は常々言っている。「観てくださる方に何かを投げかけるような作品を作りたい」。そして「偉人よりも市井の人を演じていきたい」と。近年の出演作は、ますますその傾向が強くなり、また“何か”を伝えようとしているのが分かる。

“北の三部作”と呼ばれる『北の零年』(2005)では明治維新による悲劇を、『北のカナリアたち』(2012)では信頼についてを、『北の桜守』(2018)では南樺太の市井の人々の受難を、そして二宮和也と共演した『母と暮せば』(2018)では長崎の原爆をテーマにしている。

 また、映画化には至らなかったが、多くの子どもが犠牲になった戦時中の疎開船、対馬丸の事件を企画したこともあったという。