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年を重ねるとさらに泣ける映画3選 名作から最新作までポイントは「失う」こと
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「泣ける映画」と一口に言っても、何に対してどのような涙が流れるかは実に幅広いものです。若い時に泣いた映画が年を重ねると泣けなかったり、またその逆だったり。今回は映画ジャーナリストの関口裕子さんのナビゲートで、大人がしみじみと泣ける映画をセレクトしてみました。キーワードは「失う」。あなたはどの作品で一番泣けますか?
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数ある泣ける映画。一番涙を誘いやすいのは、恋愛の顛末を描いた作品かもしれない。人は愛する人から信頼されることで肯定感を感じやすいもの。だからこそそれを失った時の喪失感は大きいのだと思う。
ここでは恋愛映画をひとまず脇に置いて、大人が恋愛以外で「何か」を失った時に流す涙を紹介したい。別の見方をすれば、泣ける映画というより「自分の中にある恐怖と向き合う映画」なのかもしれないが。
『ニュー・シネマ・パラダイス』~純粋な思いを失った時
何度観ても泣けて仕方がない『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)は、子どもの頃に出合う宝物のように輝く世界を描いた作品だ。
第二次大戦終戦後のイタリアの地方。トトことサルヴァトーレ(サルヴァトーレ・カシオ)は、その村にある小さな映画館で、映写技師のアルフレード(フィリップ・ノワレ)の手伝いをし、毎日のように映画を観ては気持ちを高ぶらせていた。トトにとって映画は世界のすべてだったのだ。
監督のジュゼッペ・トルナトーレが、トトの“世界”の楽しさを視覚化して見せたのは、当時は可燃性だったフィルムが燃えて映画館が火事になるシーン。火事の前にアルフレードは、劇場に入れなかった人々のために鏡に反射させて映画を広場の壁に映写する。その瞬間、歓喜の声をあげる人々。観ているこちらも心震えるシーンだ。
トトが初めて村を出るのは徴兵のため。だがアルフレードは、除隊して再び村に戻ったトトを「外に出て自分の世界を探せ」と追い立てる。失恋から遠ざける意味とも、トトの中にある才能を見抜いた親心ともいえるが、その時にトトが感じた孤独と心細さは親元を離れる際に誰もが経験することでもある。
やがてトトはアルフレードの訃報により、成功した映画監督のサルヴァトーレ(ジャック・ペラン)として帰村する。そんな彼にアルフレードが遺したプレゼントは、少年の頃のトトが愛してやまなかったもの。そして大人になった彼が、その名声とともに永遠に失ったもの……手放したつもりはないのに失っているものだった。
そのことに気付いた瞬間、涙はあふれ出る。大人が観ると大泣きしてしまうのは、自分も手放していることに気付くからなのだろう。
『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』~五感の1つを失くした時
『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』(2019)の主人公は、歌手である恋人ルー(オリヴィア・クック)と、大型バスを改装した車で全米をツアーして回るドラマーのルーベン(リズ・アーメッド)。ドラッグと飲酒の依存症で、爆音で毎日ギグを行っているルーベンは、ある日聴力を失ってしまう。
先日発表された第93回アカデミー賞では音響編集賞と編集賞を受賞。この評価が示すように、ルーベンが徐々に失っていく聴力をくぐもった音で巧みに表現しており、サブタイトルの逆を行く“聞こえないということ”を味わえる映画でもある。音楽を仕事にしているにもかかわらず、聴力を失うことの恐ろしさ。ルーベンの落胆が我が身をも襲う。
ルーベンは、ベトナム戦争で聴覚を失ったヘクター(ポール・レイシー)の運営する、ろう者のシェルターで学び、心穏やかに暮らし始める。しかし、彼の希望する未来はあくまでも手術をして以前の日常に戻ること。
ヘクターはそんなルーベンに「ここで暮らす人々は聴こえないことを障がいだと思っていない。その暮らしを壊す可能性があるなら今すぐ荷物をまとめて出て行ってほしい」と告げる。
当初、聴覚を失う恐怖を追体験しながら観ているが、やがてそれ以前に考えなければいけないこと――「この先の人生を何のために生きるのか」という根本を失っていることに、この映画は気付かせてくれる。
それと向き合うことの恐ろしさにいったん気持ちにフタをしてみるが、いつかは向き合わねばならないこと。そうと思うと、涙が出そうなくらい怖い映画でもある。