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同性の支持を集める“ガールクラッシュ”な英女優 自分の人生を幸せにする生き方とは

著者:関口 裕子

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『プロミシング・ヤング・ウーマン』全国にて公開中 (c)2020 Focus Features, LLC.
『プロミシング・ヤング・ウーマン』全国にて公開中 (c)2020 Focus Features, LLC.

 派手なイメージが先行するハリウッド俳優に比べて、英国俳優にはいわゆる“個性派”が多数。男女問わず「この人でなければ」の存在感を強く発揮しています。また、ジュディ・デンチやヘレン・ミレンといった大御所が現在も主演を張っていることもあり、歳を重ねる姿が楽しみな女優も多数。そんな“老後まで楽しみ”な英国女優の1人が、今年36歳を迎えたキャリー・マリガンです。「同性である女性が惚れ込む魅力を持つ女性」とも呼ばれるキャリーの魅力を、最新作『プロミシング・ヤング・ウーマン』を通じて、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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自らの手でハードな人生を選ぶ役 自身と重なる部分も

 キャリー・マリガンの演じる役は、自らの手でハードな人生を選ぶことが多い。それは必ずしも幸福な道とは限らないし、チョイスが間違っていても突き進む。勝ち取るための武器があっても、中途半端な幸せならむしろ躊躇なく放棄する。米アカデミー賞作品賞を含む5部門でノミネートされ、脚本賞を受賞した『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)で演じたキャシーもそんな人物だ。

 さらに言えば、米アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた『17歳の肖像』(2009)や、重度の性依存症の男とその妹を描いた『SHAME -シェイム-』(2011)、カズオ・イシグロ原作の臓器提供のために育てられた子どもたちを描くSF『わたしを離さないで』(2011)、幸せに見えた家族の崩壊を描く『ワイルドライフ』(2018)で演じた役もそう。そんな主人公たちの生き方はキャリー自身とも少し似ている。

 キャリーは、高校在学中から俳優になることを決めていた。ただし両親は大反対。大学に行くことを強行に勧める。だが卒業間近、『ゴスフォード・パーク』(2001)、「ダウントン・アビー」(2010-2015)などのプロデューサーであるジュリアン・フェロウズの講演を聞いたキャリーは俳優になる意志を固め、ジュリアンに手紙を書き、『プライドと偏見』(2005)のキティ役を勝ち取る。

 本当はミュージカル俳優になりたかったというが、歌の才能はないと判断し、舞台俳優として研鑽を積む。英国の名優の多くが学ぶ王立演劇学校へは行かなかった。それは現代の演劇におけるスタイルは映画に似て、古典的な演劇メソッドに頼るのではなく、自身の本能や誠実さに身を任せるものだと気付いたから。必要なのは、感情の流れに沿って声を出すこと……そう考えたのは19歳の時。早熟な若者だった。

 実際、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェンネル監督は、キャリーの演技の素晴らしさについて「彼女は物事を考えすぎず、観客やカメラを意識せず、誰かに合わせたりもせず、ただその人になり切れるところ」だと証言する。なぜそんな風に自己を確立できるのか?

女性監督と組むことが多い理由とは?

 キャリーは、脚本の冒頭を読むだけで自分が興味を持つ作品かどうか分かるという。そんな風に引き受けたのが『プロミシング・ヤング・ウーマン』だ。

 ドクターを目指す“プロミシング・ヤング・ウーマン”(前途有望な若い女性)だったキャシー(キャリー・マリガン)。だが、友人を襲った悲しい事件をきっかけに大学を辞め、コーヒーショップの店員として30歳の誕生日を迎える。そんな彼女が夜な夜なクラブで泥酔している姿を見せるのは何のためなのか。

 非常にシリアスなテーマを扱う本作は、ラブストーリーであり、コメディであり、スリラーであり、ホラーであり、復讐劇でもある。

 キャリーは「これを演じ切るには非常に特殊な才能が必要だと感じた」と言っている。要するにさまざまな要素を突出させることなく、並行して演じなければならないからだ。その1つが際立って見えたとしたらたぶん意図とは違うテーマを観客に届けることになる。

 自分1人ではチャレンジしがたい作品。それでもオファーを受けたのは、脚本と監督がエメラルド・フェンネルだったからだ。「彼女には人を惹き付ける魅力があり、とても知的でクール。一度会うと恋に落ちてしまう」とキャリーは言う。アカデミー賞の授賞式でのエメラルドの発言からも、確かにダークでパンチの効いたユーモアセンスの持ち主であることがうかがえた。

 キャリーは、女性監督と組むことが多い。『未来を花束にして』(2015)、『マッドバウンド 哀しき友情』(2017)もそう。それは偶然ではなく、女性監督の脚本作品は資金集めが男性監督よりはるかに難しいため、支援したいと思っているからだ。「女性監督は業界に入るのも、仕事を継続させるのも難しい。興行的成功や評価が伴わなければ2作目を撮るのは難しい」という。

 そんなあり方を是正するため、投資的な意味も含め、女性監督の作品を選ぶように心がけ、『プロミシング・ヤング・ウーマン』では製作総指揮も務める。「幸運なことに私のところにはたくさんの女性監督の企画が集まり、そのほとんどが本当に素晴らしい」のだと。