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ヘプバーンと明石家さんまが共演!? 日本で人気CMの“元ネタ”になった古典映画3選

著者:関口 裕子

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『ローマの休日』でオードリー・ヘプバーンが演じたアン王女【写真:Getty Images】
『ローマの休日』でオードリー・ヘプバーンが演じたアン王女【写真:Getty Images】

 古今東西、膨大な本数が製作されてきた映画。永遠のマスターピースとして語り継がれる古典映画の名作には、必ずと言っていいほど印象的なシーンが含まれています。他の作品やドラマ、CMなどで“再現”されるたびに、「ああ、あの映画ね」と作り手側と鑑賞者側の間で“共通言語”のように機能する古典映画たち。とはいえ、実際にその映画を深く知っているかといえば、微妙なところかもしれません。そんな“オマージュを捧げられがち”な古典映画の名作を、映画ジャーナリストの関口裕子さんにナビゲートしていただきました。

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70年近く前の映画でもCMでパワーを発揮

 先日、明石家さんまとオードリー・ヘプバーンが共演(!)しているCMを見た。共演と言っても合成。偽りがある者は食いちぎられるという「真実の口」の前で撮影された『ローマの休日』(1953)の一場面に、明石家さんまが合成されているのだ。

 真実の口に差し込んだ手を袖で隠して食べられてしまったふりをする新聞記者のジョー(グレゴリー・ペック)に、アン王女(オードリー・ヘップバーン)が泣いて驚くかわいいシーン。CMでは明石家さんまが戻した手には、創味食品のパスタソースが握られている。

『ローマの休日』は70年近くも前の映画。それでもCMに使われたのは、演出にインパクトがあり、今に通じるポップさがあるということだろう。時を経た映画が共通の話題になること、広く大勢の人に商品をアピールすることができるパワーなど、考えてみれば興味深い。

『ローマの休日』が古びない理由とは

『ローマの休日』は1954年の第26回米アカデミー賞で主演女優賞(ヘップバーン)や衣装デザイン賞(白黒)を受賞した名作。ある小国のアン王女が米国人記者のジョーとローマをめぐり、1日だけのラブストーリーを展開する。

 製作・監督のウィリアム・ワイラーは、観客にアン王女と同じ気分を味わわせることに成功している。同地を訪れた世界中の観光客の多くが、アン王女とジョーにならってサンタ・マリア・イン・コスメディン教会で彫刻の口に手を差し入れたことだろう。

観光映画としても影響力が衰えない『ローマの休日』【写真:Getty Images】
観光映画としても影響力が衰えない『ローマの休日』【写真:Getty Images】

 そんな観光映画である反面この映画が古びないのは、深読みできる台詞の面白さやロケーションの選び方の面白さなど、通り一遍の鑑賞では終わらせない魅力を秘めているからだ。

 例えばジョーがトレビの泉で眠りこけていたアン王女を仕方なく自宅に連れ帰った時に、アンがそらんじた詩の作者名を「キーツよ」「シェリーだ」と言い合う場面。この場面でアン王女がそらんじた「Arethusa」はシェリーの詩だ。

 ジョーの回答が正しいことで終了する話なのだが、そもそも詩の作者名なんてスッと出てこない。ジョン・キーツもパーシー・ビッシュ・シェリーも同時代に生きたイングランドの詩人で、1810年代終わりにイタリア滞在していたことも共通している。アン王女が間違えるのも無理はないが、そこでジョーが作者名を主張できるほど高い教養を持っていることをさらっと描いているのだ。

『ローマの休日』ジョーの家で眠るアン王女【写真:Getty Images】
『ローマの休日』ジョーの家で眠るアン王女【写真:Getty Images】

 さらに、実のところジョーの部屋はキースの住んでいた場所のすぐ近く。ジョーがそれを知らないはずはない。ワイラー監督がロケ地にここを選んだのは、ジョーはキースの詩が好きだったと暗示したのかもしれない。

 以前、ローマを訪れた時このことに気付き、ものすごく感動した。もちろん心の中でだが。映画を観ていると、こんなふうにとても得した(私だけが得なのかもしれないが)気分になることがよくある。