カルチャー
富司純子「もし希望になるのなら」 映画界の若手支援企画に出演を決めた理由とは
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コロナ禍に見舞われて2度目の秋。撮影中断や公開延期、映画館の営業時間短縮といった制限を受けた映画界では、必然的に映画作りの現場までもが大きく停滞してしまいました。そこで立ち上げられたプロジェクトが、若手監督3人を軸に総勢12人の監督たちによる短編映画を集めた『DIVOC-12』(ディボック-トゥエルブ)。これからの日本映画を背負う若手に活動の場を作るため、さまざまな方面からの協力によりスタートしました。物事が動き始めるよう背中を押す大きな力には、日本を代表する名女優・富司純子さんの決断もあったようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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“希望”のようなものが立ち上がってくる短編映画
SNSの時代、何がきっかけとなって世界へと情報が発信されていくか分からない。特にそれを感じるのは、新型コロナウイルスの影響で人の移動が物理的に規制されているからだろう。
2018年、SNSをきっかけに“中国のガッキー”と日本で話題になったのは、ロン・モンロウ。そのロン・モンロウが初めて映画にチャレンジした短編映画が藤井道人監督の『名もなき一篇・アンナ』だ。この作品を含む短編集『DIVOC-12』が間もなく公開される。
ロン・モンロウは中国の少数民族であるトゥチャ族として湖南省に生まれた。大学時代に参加したスター発掘番組でグランプリを獲得し、歌手として活動を開始。“中国のガッキー”としてSNSで話題になったのはその頃だ。
それをきっかけに、2018年には日本での歌手デビューも決定。同年、中村アン主演のラブコメディドラマ「ラブリラン」(日本テレビ系)に女子高生インスタグラマー・栗子として出演した際も、“新垣結衣にしか見えない”と話題になった。
『名もなき一篇・アンナ』では、喪失感を抱えた男(横浜流星)と、彼の前に現れたアンナ(ロン・モンロウ)が時空を超えて旅をする。撮影期間は3日間。北海道、沖縄、京都、東京でロケを敢行した。藤井監督は移動が難しくなった今だからこそ、実際の場所で撮影することにこだわったのだという。
アンナは中国語、男は日本語で会話。2人は本当に存在するのかどうかも分からない浮遊感を持つ。アンナとは誰なのか? 答えは観客ごとにあるのだろうが、「成長への気付き」をテーマにした藤井監督の短編からは“希望”のようなものが立ち上がってくる。
今もツイッターに手描きの日記をアップしているロン・モンロウはその中で、「たくさんの真理は私たちが生まれつき知っているものではなく、時間と経験を通して成長するもの」なのだろうと書いている。日本語ができず、なかなか友達を作れずにいた彼女にとっても、この映画は一つの“希望”なのだろう。
コロナの影響で活動が滞ったクリエイターを支援する基金で制作
短編集『DIVOC-12』は藤井監督の他、『幼な子われらに生まれ』(2017)の三島有紀子監督と『カメラを止めるな!』(2017)の上田慎一郎監督が、それぞれのテーマのもとにチームを作り、4監督ずつ計12人が撮った短編をまとめたもの。新型コロナウイルスの影響で映像制作が滞ったクリエイターを支援する「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」で作られた。
「DIVOC」とはCOVIDを反対に並べた言葉で、「12人のクリエイターとともに、COVID-19をひっくり返したい」という思いが込められているという。
藤井監督チームのテーマは「成長への気付き」。一方、上田慎一郎監督チームは「感触」を選び、上田監督自身は松本穂香主演のナンセンスコメディ『ユメミの半生』を撮った。閉館になる映画館に通う、映画監督志望の中学生・カケル(石川春翔)。そこに現れた映画館スタッフのユメミ(松本)が、自分の波乱万丈な半生を名画のパロディに合わせて語り始める物語だ。
パロディとして引用されるのは、世界初の映画『ラ・シオタ駅への列車の到着』(1896)、サイレントからトーキーへの転換期の作品、『カサブランカ』(1942)、『イージー・ライダー』(1969)、『燃えよドラゴン』(1973)、『スター・ウォーズ』(1977)など。それぞれのヒロインに松本が扮し、上田監督の映画愛を代弁している。