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美少女から大人の女性へ美しく成長 小松菜奈の“強さ”が光る映画『恋する寄生虫』

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

仕事を単なるビジネスとせず、“心”を介在させる小松菜奈の姿勢

(c)2021「恋する寄生虫」製作委員会
(c)2021「恋する寄生虫」製作委員会

『恋する寄生虫』に登場する“虫”を、監督の柿本ケンスケは“心”という風に解釈して演出していたそうだ。人間は“虫”に支配され、他者と共存できなくなっていく。だが“虫”を持ったため恋に落ちる。映画の中では、“虫”を持たない人間の方がマジョリティだが、果たしてそれがいいことなのか?

 撮影では、相手役の林遣都が緻密に役を作り込み、繰り出すセリフと醸成した空気感を、小松が受け止め、リアクションする形で演技が進んだのだそう。2人のかけ合いは、ファンタスティックな世界の奇天烈とも思える物語を、リアルな感情をぶつけ合うエモーショナルな恋物語に変換して観客に届けることに成功した。

 小松は、時間をかけて役の感情を作ることができる映画撮影のリズムが肌に合っているという。忙しい時間帯の違いも相まって、スタッフはスタッフ、俳優部は俳優部と、スタッフとあまり会話することのない演者も多い中、小松はベテランスタッフの話を聞くのが好きなのだそう。簡単にまとめすぎかもしれないが、小松は仕事を単なるビジネスとしていない。そこに“心”を介在させているのだと思う。

“心”を介在させることで、複雑になることやつらくなることがある。効率を考えれば、排除した方が楽だろう。だが、小松はそれを恐れない。やはり“強い人”だと思う。

 この映画の本質は、“心”を“虫”と置き換えることでほの見えるように思う。そして、私たち観客も、自分が抱える生きにくさのわけを、“恋”と“虫”を経由させることで考えることができるのも面白い。

 小松菜奈は、作品選びがとてもうまい。その作品選びのうまさも、周りにその仕事を受けることを肯定するスタッフがいることも、才能の一つだと思う。

 
『恋する寄生虫』 11月12日(金)全国ロードショー 配給:KADOKAWA (c)2021「恋する寄生虫」製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。