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石原さとみが奔放な再婚相手役 転機で得た“哲学”が際立つ『そして、バトンは渡された』

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会
(c)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

 今年の12月24日で35歳を迎える石原さとみさん。可憐な美しさを持つ存在ですが、年を重ねるにつれ“芯の強さ”を感じさせる部分も確固たる魅力の一部になっています。先日出演したテレビ番組では、30歳で体調面や仕事、プライベートの悩みが「結構しんどかった」と告白。けれど逃げずに立ち向かったと語り、注目を集めました。そうした経験は、映画出演最新作『そして、バトンは渡された』でも見て取れるようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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人が一生かけて学ぶ「素の自分として他者と向き合うこと」

 人が一生かけて学ぶこと。それはもしかすると、「素の自分として他者と向き合うこと」なのかもしれない。「素の自分として向き合う」とは、開けっぴろげで考えなしに他者と接するという意味ではない。むしろ熟考した末にたどり着いた“自分の考え=哲学”に基づいて話ができる人だ。

 それができるかどうか、かなり個人差があると思う。小さい頃からありのままにコミュニケーションできる人もいれば、なかなか素の自分を出せない人もいる。ともすれば、人生の折り返し地点を過ぎてもまだな人もいるだろう。恥ずかしながら筆者は後者だ。

 その理由は3つあるのではないか。まずは熟考するがその時間内に自分の答えまでたどり着けないケース。2つ目は自分に張りめぐらせた“根拠のないプライド”がバリアとなり考えに至らないケース。3つ目は考える時間がない、または考えることで得られるものだと気付いていないケース。

 前田哲監督『そして、バトンは渡された』は、血のつながらない母娘・梨花とみぃたん、同様に血のつながらない父娘・森宮さんと優子、2つの家族の抱える秘密と嘘が起こす感動の物語。みぃたん(稲垣来泉)の継母で3回結婚する梨花(石原さとみ)は、「素の自分で接する才能」のある最たる例だと思う。

 そして、そんな継母の才能を間近で観察しながら育つみぃたんは、この映画の中で、梨花以上に素の自分でコミュニケートできる才能を発揮する人物へと成長していく。その姿はとても魅力的だし、そこがこの映画の見どころとなっている。

衣装合わせにも積極的に参加 ある種の“哲学”を伝える役どころ

 梨花はみぃたんの実の父親(大森南朋)の再婚相手として現れる。みぃたんの友達は「かっこいい」と梨花に憧れる。ふんわりとしたロングヘア。原色や水玉や花柄など目を引く模様がついた鮮やかな服。目を引く梨花のそのファッションにはさまざまな物語が託されているという。

 梨花を演じる石原さとみは衣装合わせにも積極的に参加した。奔放な梨花がスクリーンに映っている時間は思いのほか少ない。でも、みぃたんにその生き方を印象付けたのと同じように、映画を観ている私たちにも彼女がたどり着いたある種の“哲学”を伝えなければならない。

 石原は、前田哲監督、衣装の宮本茉莉、美術の倉本愛子らと話し合いながら、梨花という人間の幅をファッションで表そうと試みた。ヘッドアクセサリーや帽子などでのアレンジや服の素材の変更などは石原も提案したのだそう。

 そんなファッションサイドからの表現も納得できるほど、センス抜群のイメージがある石原。だが若い頃は作品の中のファッションやメイクに興味がなかったという。興味がなかったというより、一つの作品を作り上げる中に、自分がどう参加したらいいのか方法を見出せなかったのだろう。だから与えられたものをそのまま受け入れざるを得なかった。

 それが悪いわけではない。でもそこにいながら作品作りに参加している感覚を得られないとしたら、たぶん仕事は徐々に無味乾燥なものになり、いずれはなぜ自分はここにいるのかという究極の疑問にぶつかるのではないか。