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「芸能界に憧れていないこと」が魅力の一つ 松本穂香が観る者を惹き付ける理由とは

著者:関口 裕子

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(c)2021 musicophilia film partners (c)さそうあきら/双葉社
(c)2021 musicophilia film partners (c)さそうあきら/双葉社

 高校在学中に芸能事務所のオーディションを受けて合格し、2015年1月に俳優デビューを果たした松本穂香さん。以後は連続ドラマや舞台、映画などで活躍を続けています。その一方で「ネアカな人に心から憧れる」と語る一面も。とはいえ、そうした内面が逆に演技を輝かせているようです。映画最新作『ミュジコフィリア』を通じて、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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既存のクリエイティブに満足せず、常に新しい表現を探す姿

 ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)にこんなセリフがある。「優れた人は皆おかしい」。人から「変わってる」と言われて悩む少女アリスに父親が伝えた言葉だ。「変わってる」は、ティム・バートンのみならず、作り出すことが大好きな子ども時代を送った人の多くが直面したことのある言葉なのではないか?

 久々にこのことを思い出したのは、<音楽を愛する者たち>が必死になる刹那を描いた音楽映画『ミュジコフィリア』を観たからだ。ヒロインを務めたのは、松本穂香。2017年のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」の青天目(なばため)澄子役や、「この世界の片隅に」(2018・TBS系)の主人公すず役で注目の若手だ。

 松本はかつて自分のことを“ネクラ”で“変わっている”のだと語ったことがある。「ネアカな人に心から憧れる」と。それは彼女が既存のクリエイティブに満足せず、常に新しい表現を探して、とことん考えているからに他ならない。決してネガティブなことではない。

 だが、時に“ネクラ”や“変わっている”の言葉は弾丸に変化することがある。痛みを与えようと発射されるそんな言葉。もし何発か浴びたことがあったとしたら、痛みを知るからこそ用心深くなる。ただ口にしやすいだけの使い古された言葉なのに。

吹き替えなしで演じ切った音楽シーンで観客を引き込む

『ミュジコフィリア』は、京都にある芸術大学を舞台に、大学生、教授、かつて音楽家を志した者など、音楽を愛してやまない人々が自分なりの方法で「音楽とは何か?」をとらえようとする音楽映画だ。

 芸大という場の常として、登場人物みんな自我が強く、個性も強い。社会の中ではたぶん生きにくいであろうが、芸術大学の中であれば屹立する個性の一つ。その個性こそがものを生み出すのに必要なエネルギーなのだが、社会人になるとそうとばかりは言っていられない。純粋に音楽の何たるかのみを追求することができる大学時代は、音大生にとって最も貴重な時間。そんな愛おしくも大切な時間を本作では描いている。

 松本が演じる浪花凪(なにわ・なぎ)は、ピアノ科の学生ながら、絶対音感と類まれな歌声の持ち主。留年中の作曲科3回生、青田の発表会では無理やり頼まれ、歌とダンスで構成されたコンテンポラリーなパフォーマンスを披露する。

 映画の中の音楽シーンは本当に難しい。下手に吹き替えなしで演じようものなら、他のシーンがどんなに成立していようが映画を台無しにする恐れがあるからだ。でもこのシーン、かなりグッとくる。それを松本は吹き替えなしで、観客を引き込むまでに作り上げた。約10か月の練習期間を設けたそうだが、歌い方のクセも含めて凪という人物を感じた。