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高校生の三角関係描く『ひらいて』 芋生悠が役で伝える「人が人を許すことの難しさ」

著者:関口 裕子

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(c)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会
(c)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

 今年の12月で24歳を迎える芋生悠(いもう・はるか)さん。2015年から主に俳優として活動を始め、現在までに多数の映画やドラマ、CMに出演しています。近年では年に3〜4本の映画出演作が公開されており、個性豊かな日本の監督陣に愛されている存在です。そんな芋生さんの持ち味を存分に感じられる作品が、新藤美雪役で出演した『ひらいて』(22日公開)。高校生による一風変わった三角関係の物語を、唯一無二の存在感で演じているようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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思いを寄せる相手の彼女を誘惑する女子高生

 人の感情は複雑だ。例えば“かわいい”という言葉。かわいいと表現した者はその対象を、「愛情をもって大事にしたい」と思っているように感じる。だが“かわいい”は、小さいもの、幼いもの、無邪気で憎めないもの、健気なものに対して使うこともある。そこには無意識な支配意識も含まれているのかもしれない。

「彼女をもっと支配したい気持ちとむちゃくちゃに壊したい衝動が激しく混ざり合う」と綿矢りさが書いた小説がある。2012年に出版した「ひらいて」(新潮社)だ。

「ひらいて」の主人公はセックスの最中、相手に対して“支配欲”と“破壊欲”を抱く。と同時に手中にある相手を“かわいい”とも感じていた。主人公の名前は木村愛。そして愛がかわいいと感じた相手の名前は美雪だ。

 愛は成績が良く、クラスで目立つタイプの女子高生。彼女は同じクラスの寡黙で優秀な男子生徒、西村たとえに思いを寄せている。だがたとえには密かにつきあっている恋人・美雪がいた。自分の感情に素直で、忖度するつもりのない愛にとって、たとえに恋人がいることなど障害にはならない。美雪がたとえを諦めればいい。愛の“もの”になればいいのだ。

 こう書くと愛は自分勝手だし、三角関係に持ち込むそのやり口は卑劣。だが、彼女は真剣だ。だから彼女がしでかしたことで解決される問題も出てくる。世の中には中途半端な力では動かないものが多く存在するということなのか。

美雪役を通じて芋生が伝える「人が人を許すことの難しさ」

 間もなく映画『ひらいて』が公開される。17歳の時にこの原作を読んだ首藤凛監督は、「これを映画化するために生きてきた」と断言する。なぜ映画化したかったのか? 本当の理由は分からないが、破壊神のように叩き壊すことで、社会を一筋の光で照らそうとするこの物語に共感したのだろうか。

 または、そんな強烈な物語でありながら、登場人物の誰もが実は細やかなつながりを求め、行動とは逆に「誰かを無条件に肯定する存在になりたい」と考えているところに惹かれたのか。具体的なエピソードは劇場でご覧いただくとして、そんな外装ハード、内装センシティブな役を演じる役者をご紹介したい。

 愛の父親は単身赴任中。母親はご機嫌を取るかのようにいつも父親宛ての荷物を作っている。そこにコメントを入れるよう母親は促すが、愛には書くことがない。愛は欠落する“愛情”を補うためにも、たとえを手に入れ、支えたいと思っている。演じるのは『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020)、『樹海村』(2021)など主演作が次々公開される注目株、山田杏奈だ。

 ジャニーズJr.内のグループ「HiHi Jets」の作間龍斗が演じるたとえは、ある問題を抱えている。美雪とのことも誰にも秘密だ。大学に合格して家を出るために一心不乱に勉強しているが、それが抜本的な解決方法にはならないことは薄々理解している。

 美雪は自己免疫疾患による糖尿病を患っている。クラスメイトからは疎外感をおぼえられているが、両親、そしてたとえには無条件で支えられた。だからこそ、いつか自分も大切な人の支えになりたいと願っている。演じた芋生悠の名前は、彼女が外山文治監督『ソワレ』(2020)のヒロイン、タカラを演じた時に新人賞候補として何度も名前を耳にした。

 3人ともテンプレート的な演技に頼ることなく、それぞれのキャラクターの抱える複雑さを見事に演じた。その力量は甲乙つけがたい。だがここではあえて、人が人を許すことの難しさと、暴力性と愛情を併せ持ちながら人は優しい存在であると思わせてくれた、美雪を演じた芋生悠をピックアップして紹介したい。