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カルチャー

人を信用できるように…短期移住ドキュメンタリーの女性監督 東京を離れて得たものは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

お金のために嫌な仕事をしなくても、生きていけるような気がする

『夫とちょっと離れて島暮らし』を撮る前は、向かない仕事を無理にやらず、生活費はアルバイトでまかなえばいいと考えていました。ただ、こうやって1本、自主映画を撮って、奄美での公開が連日異例の超満員になっているのを見ると、本当に作りたいものを作れば対価はついてくるんじゃないかという気持ちになっています(笑)。自分が作りたいものを貫いた方がいいんじゃないかと。

 そう思えるのも、奄美に住んでいるからなのかもしれません。奄美では食べ物をお裾分けしてくれる人、疲れていたら休んでいきなよと声をかけてくれる人と、常に誰かが助けてくれる。だからお金のために嫌な仕事をしなくても、生きていけるような気がするんです。

 撮影した集落に私は、日本の原風景を感じるというか、人はきっと昔からこんな風に暮らしていたのではないかと思うことがあります。初めて行った時にちゃずさんは懐かしさを感じたそうです。私は安心して暮らせるようになり、人を信用できるようになりました。東京にいる時は人と目を合わせることもできず、緊張しっぱなしだったのに。

 奄美の集落には大きい家族みたいな感覚があって、人はまず信用するものだということに気づかせてくれるんです。それがベースになると、「東京にも良い人が多いな」と感じるようになって(笑)。それは東京での10年間の暮らしの中で失っていったことなのかもしれません。

ちゃずさんを見送る島の人々(c)映画「夫とちょっと離れて島暮らし」製作委員会
ちゃずさんを見送る島の人々(c)映画「夫とちょっと離れて島暮らし」製作委員会

 奄美の方が言ってくださるのは、「これまでも島を舞台にした映画はあったけれど、そのまま切り取ってくれた映画はなかった。綾ちゃん、本当にありがとう。この映画をよろしくお願いします」。そういうのを聞くと本当に「頑張らないと」と思いますね。

 この作品を撮ったからだと思いますが、本当に自分が関わりたいと思う作品に関わっていきたい、できれば奄美が舞台の映画をもっと作りたいというのが今の希望です。自分もそうですが、たくさんの方に奄美で作品を作ってほしいなとも思っています。そしてそういう機会にはぜひ俳優として参加できればいいなと思っています。

 
『夫とちょっと離れて島暮らし』12月25日(土)より新宿K’s cinemaにて2週間限定公開&全国順次公開予定

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。